[ 機械 ]

【別刷特集】旋盤-CNC旋盤の開発とJIMTOFでの見どころ・期待

(2016/11/21 05:00)

 1952年に今日の数値制御(NC)工作機械の特許が米国で申請されて以来、旋盤をはじめ、マシニングセンター(MC)や複合加工機などいわゆる除去加工を行うためのほとんどの工作機械には、コンピューター数値制御(CNC)が取り入れられている。JIMTOFはわが国工作機械メーカーのみならず世界のメーカーが多数出展しており、まさに今後の工作機械技術の開発動向を探るには最適な展示会となっている。ここではCNC旋盤について紹介するにあたり、従来の工作機械の要素技術はもとより、産業とIoT(モノのインターネット)の関係が大きく取り上げられていることとも関連して、見どころと新技術に関する期待を込めた話題を紹介する。

◇金沢工業大学 工学部 機械工学科 教授 森本 喜隆

自動化と生産性向上への取り組み

 CNC旋盤が広く普及した理由の一つに、自動化、省力化に適していたということが挙げられる。つまり対象部品の加工工程を分割し、それに見合った工作機械を配置していくライン構成は、各工程間の部品搬送を担う自動化機器を制御するプログラマブルコントローラ(PLC)とNC装置との接続によりなされ、それぞれの機器の高速化とともに生産性向上に寄与してきた。近年では、さらに設置スペースの省スペース化が求められ「n分の1ライン」と呼んで生産設備の小型化に取り組むこともある。

 一方、CNC旋盤を基にした複合加工機による省スペースの取り組みもある。複数の主軸、工具軸を持ち、1台の工作機械で複数工程をこなすことにより、省スペース化と省人化を実現しようとするものである。

 現在では二つの主軸に複数の刃物台、そして工具交換機能をもつ回転工具台を搭載した“複合”ならぬ“複雑”工作機械とも呼ぶべきものも出現している。この複合加工機を複数台配置してセル生産を行うことも今後の課題となるであろう。

制御技術の進展

 8ビットコンピューターによるサーボ制御から、現在では64ビットコンピューターによるサーボ、PLC、そしてユーザー領域のオープン化を実現した制御装置に発展してきた。これによりコンピューター利用製造(CAM)、シミュレーターの有効活用をはじめ、実時間干渉回避、適応制御による加工条件の調整、サーボ系のチューニングの適正化が実現し、上位の高度な生産システムとの連携も取れるようになってきた。

【JIMTOF2014までの開発動向】

 これまでは工作機械単体での機能付加、性能向上について取り組んだ成果をJIMTOFでお披露目することが多かった。その中でもJIMTOF2014では(1)加工状態を検出しビビリ振動を回避するアルゴリズムを持った適応制御(2)サーボ技術の高度化により可能となった低周波振動切削の開発(3)新世代の非軸対称3次元曲面の旋削加工を実現する「NACS―Turning」―は、その流れの延長線上にある。つまり伝統的な技術開発の取り組みの成果とも言え、そのほとんどは社内や共同研究を通しての開発成果であろう。

JIMTOF2016に期待される新技術

●IoT対応

 第一にIoT対応であろう。これまでにも工作機械本体に温度センサーを取り付けて熱変形対策を行うものや、振動計を取り付けて加工状態を判定するもの、ベアリング付近の振動を監視するものなど、IoT技術と言える取り組みは存在しており、工作機械メーカーはセンシング技術が得意である。

 しかし、これからは生産性と保守管理との両者を見据えた取り組みが求められている。今や世界展開している製造業にあって、工場の稼働状態の把握はもちろん保守に関するビッグデータの活用により、ダウンタイムのゼロ化を目指していることは周知である。この時、自社技術者のみで対応できる範囲を超えてしまうことも考えられ、今回のJIMTOFではさまざまなIT企業との結びつきが見られる、もしくはIT企業からの提案がなされることに期待している。また制御装置単体ではなく、IoTに対応した通信規格が種々提案されている。製造実行システム(MES)をはじめとして、各社のCNC装置のIoT対応機能などの紹介は楽しみである。

●スカイビング加工によるハードターニング

 前回のJIMTOFでは歯車加工にスカイビング加工を適用する取り組みが多数見られた。独自の工具形状と経路生成に基づくMCによる歯車の高効率加工は大きなインパクトを与えた。一方、旋削におけるハードターニングの主流は駆動形ロータリー工具によるものはあったが、昨年度あたりからスカイビング加工を旋削に適用して工具上の加工点を連続的に移動させることにより工具寿命が長いハードターニングが可能となり、CNC旋盤に装着された加工方法が提案されてきた。今回もこの種の提案がなされることが期待できる。

●レーザー接合とCNC旋盤

 ファイバーレーザーの小型化で、工作機械にこれを搭載し二つ以上の部品をCNC旋盤や複合加工機で加工後にそれらを接合する新しい試みが見られる。同じファイバーレーザーを用いて金属粉体を溶融・成形・加工を行う装置に比べると、通常の加工を組み合わせて接合する方式は機械加工現場に採用されやすいと思われる。今回の展示会で実用機が展示されることを期待する。

●人との協調作業を可能とする産業用ロボット

 13年12月から産業用ロボットの規制緩和により、人との協調作業が可能となっている。このことは従来のライン生産方式よりセル生産方式に恩恵があるように思われる。

 つまり複合加工機を複数台配置し、その間を1台の産業用ロボットによって加工部品をハンドリングするセル生産を行い、同時に作業者はその補助を行う。

複雑な工程設計をこなし、なおかつ複数台使用できる生産技術者がわが国にも育てば、モノづくり大国の面目躍如となる。

《CFRP製テーブルを独自製作-振動抑制およそ80%以上》

  • 図1 CFRP製対向テーブルを搭載したNACS―Turning用CNC旋盤

■森本研究室の取り組み

 当研究室では焼入れ鋼の非軸対称3次元曲面の旋削加工(NACS―Turning)を実現するためのさまざまな技術的課題を解決してきた。中でも、高加速度運動を行う必要のある刃物台移動用テーブルの位置制御は5ナノメートル分解能の位置検出器とリニアモーター駆動装置を用いて加速・減速に伴う加速度10G以上を達成した。

 このことによりNACS―Turningは可能となったが、テーブル質量と加速度により発生する慣性力が機械の加振源となり、機械各部への振動伝達が問題となった。

そこで当研究室では、軸方向に対向して配置した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製テーブルを独自に製作。軽量化と高剛性化を同時に達成し、前述の加速度発生時でも振動伝達が極小となるCNC旋盤を開発した(図1)。この振動抑制効果はおよそ80%以上に達し、形状精度の向上も確認している。

  • 図2 デスクトップNCフライス盤

 また工作機械の小型化に取り組んでおり、CFRP製パイプを組み合わせてトラス構造ともみなせるフレームを構成したCNC旋盤とデスクトップNCフライス盤(図2)を開発している。CNC旋盤ではアクチュエーターによりアクティブ振動制御を適用し高精度な旋削を可能としている。

 また総質量60キログラム程度のNCフライス盤は、斜材により剛性の調整を行うことが可能であり、スマートフォンのケース加工を目指して取り組んでいる。当日ポスターセッションでは、NCフライス盤の開発について学生が発表する予定である。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/11/21 05:00)

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