[ 機械 ]

【別刷特集】研削加工-高能率・高品位表面仕上げ

(2016/12/21 10:30)

 自動車や家電製品をはじめ、さまざまな工業製品の高精度が進む中、加工法あるいは材料も高度化が求められている。特に摺動(しゅうどう)部品においては摩擦低減を目的とする鏡面加工に期待が寄せられている。一方、表面粗さを追求すると加工能率が低くなることが一般的である。しかしながら現実には短時間で高品質な部品を加工することが求められている。ここでは高能率に高品位な加工面を得られるラピッドローテーション鏡面研削について紹介する。

◇京都工芸繊維大学 機械工学系 助教 山口 桂司

ラピッドローテーション鏡面研削

 研削加工において表面粗さを改善する場合、細かい砥粒(とりゅう)の砥石(といし)を使用することが一般的である。しかしながら微粒砥石を使用すると研削能率が低下するほか、チップポケットが極めて小さくなることから目づまりが生じやすくなり、目立てを行うまでの時間(目立て間寿命)が極端に短くなるなどの問題がある。

ラピッドローテーション鏡面研削では粗粒砥石を使用することで大きなチップポケットを確保し、砥粒切れ刃逃げ面をマクロ的には平坦化し、ミクロ的には微細な凹凸を同時に形成するTruncate Truing with Micro Dressing(TTMドレッシング)を施すことで鏡面研削を可能とした。

 TTMドレッシングを施すことで表面粗さの改善が期待できる一方、研削能率は低下する。TTMドレッシングを施した粗粒砥石を用いて砥石および工作物の周速度を高速化することで高能率かつ高品位な研削加工を可能とする手法である。

 研削理論上、砥石と工作物との周速度比が従来の研削条件と同じであれば、砥粒1個の幾何学的な切削状態は等しくなる。したがって砥石周速度に加えて工作物周速度を高速化することで、切りくずの幾何学形状を変えることなく研削能率を大幅に向上することが可能になる。

 また工作物1回転当たりの切り込みを小さくする代わりに工作物周速度をさらに高速化することで、工作物から見た研削点の移動速度が非常に大きくなる。

表面近傍をナノ結晶化

  • 図1 砥石周速度と工作物表面粗さの関係

  • 図2 工作物周速度と残留応力の関係

 このため工作物に対する熱影響が極めて小さくなり、工作物表層の微視的な組織変化がなくダメージの少ない鏡面研削が可能になる。ここでは研削能率を従来の研削加工と同程度とした場合のラピッドローテーション鏡面研削による加工変質層や金属組織、残留応力などを紹介する。

 図1は砥石周速度に対する工作物の表面粗さの関係である。仕上げ研削条件では5秒のスパークアウトを行った。仕上げ研削条件では、砥石周速度の高速化に伴って表面粗さが上昇する傾向が認められたが、工作物周速度にはほぼ依存せず、工作物周速度および砥石周速度をともに高速化した条件においてもRa(平均粗さ)0.10マイクロメートル以下の鏡面が得られた。これはTTMドレッシングによって砥粒切れ刃逃げ面を平坦化することで、砥粒切れ刃間の高さの差が小さく抑えられたためと考えられる。

 図2は仕上げ研削条件における工作物周速度に対する残留応力の変化を示している。砥石周速度が毎秒200メートルと超高速研削の領域で、工作物周速度が増加するほど負の残留応力が大きくなる。また工作物周速度を毎分960メートルまで高速化した際の工作物表層の組織をEBSD(電子線後方散乱回折法)による観察像を図3に示す。白色の破線は工作物表面を表す。工作物表層に近いほど微細な組織が形成されている。特に最表層では数十ナノ―数百ナノメートルオーダーのナノ結晶で形成された。

  • 図3 ラピッドローテーション鏡面研削後の金属組織

 これらの結果が示すようにラピッドローテーション鏡面研削は砥石と工作物とをともに高速化することで、従来と同じ研削能率で負の残留応力を付与すると同時に、表面近傍をナノ結晶化することのできる鏡面研削法である。一般的には相反する関係にある加工能率と加工面品位、この関係を打ち破る画期的な手法として紹介した。本手法に限らず、従来の常識を超える画期的で独創的な加工法が実用化されるよう今後も研究に励みたい。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/12/21 10:30)

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