モノづくり日本会議 世界で戦うモノづくりスタートアップ、「ハードウエアカップ2020」京都で開催

(2020/3/2 05:00)

Q&Aセッションでは審査委員から次々と厳しい質問が寄せられた

事業モデルを英語でプレゼン

ハードウエアを開発するスタートアップが英語で技術内容やビジネスプランを競う「モノづくりハードウエアカップ2020」(モノづくり起業推進協議会主催、モノづくり日本会議協賛)が2月13日、京都リサーチパーク(京都市下京区)で開催された。登壇したのは応募19社の中から選ばれた8社の代表。今回で4回目となるが、前回大会に比べ、ビジネスプラン、英語力ともにかなりレベルアップし、世界で戦える日本のモノづくりスタートアップが着実に育ってきていると感じられた。

交流バッテリーのAC Biode優勝、米決勝大会へ

「我々が開発した独立型交流バッテリーは世界初。しかもこれまでのリチウムイオン二次電池より安全で、寿命が2倍程度長く、既存の材料や電池製造工程がそのまま使える。電池と電気回路全体で効率を上げ、コンバーターやインバーターも簡略化した」。

流ちょうな英語でこうプレゼンしたのは、地元・京都に本社を置くAC Biode(エーシーバイオード、京都市左京区)の久保直嗣(ただし)社長兼CEO。今回のハードウエアカップで高い評価を受け、見事優勝。賞金30万円とともに、5月19日に米ピッツバーグで開催される国際決勝大会「インターナショナルハードウエアカップ2020ファイナルズ」に参戦する切符も手に入れた。

評価の秘密は、まず交流を可能にした独自のバッテリー構造にある。角型リチウムイオン二次電池セルの両端に計2個のアノード(負極)、真ん中に1個のカソード(正極)を配置し、負極と正極の二つの隙間にそれぞれ「バイオード」と名付けた両性電極を挟み込んだ格好。

スイッチにより電気回路の接続を負極または正極に高速で連続的に切り替えることで、プラスの電荷を持つリチウムイオンが負極から両性電極に(電子はスイッチおよび電気回路を通って負極から両性電極に移動)、さらにリチウムイオンが両性電極から正極へと(電子は電気回路を通って両性電極から正極に)交互に移動し、交流電流を発生する仕組みだ。

では両性電極を使った交流だとどんな利点があるのか。通常のリチウムイオン電池に比べ電極間の電位が半分と低いため、安全性が高くなる。電気自動車(EV)やドローンの駆動用などに使われる3相交流モーターを動かすのにも、直流から交流への変換が不要で効率が良い。リチウムイオン電池以外のバッテリーにも適用できるうえ、バッテリー自体は交流だが、変換回路を組み込むことで直流での出力も可能という。

ただバッテリー構造や全体の効率を上げるための電気回路を含めて特許登録済みであるものの、まだ開発中。久保社長によれば、自動車向けに一部商談もしているが、先行するのはドローン向け。バッテリーやドローンのメーカー計5社からすでに発注内示書(LI)を受け取っている。国内の業務用ドローンメーカーと協力して、1年後をめどに実証試験を始める計画という。

  • 優勝したAC Biodeの久保氏(右)と審査委員のマイナー氏

審査委員を務めたサンブリッジグループ(東京都渋谷区)創業者兼CEOのアレン・マイナー氏は、こうした久保氏のプレゼンに太鼓判を押す。「電気回路工学などをベースにした新しい発想。3人の審査委員すべてが断トツの評価をした。小さい市場ながらドローン用のバッテリーに的を絞ったことで実現性も高い。戦略的にみても素晴らしい」と話す一方で、「彼自身、英語でどんな質問にも答えられるし、5月の国際決勝で優勝する可能性があるのではないか」と期待を膨らませる。

久保社長は大手商社の双日出身。英ケンブリッジ大学でMBA(経営学修士)の学位を取り、英国に会社を作った経験もある。それだけに「創業以来、過去13カ月の間に開かれた欧米アジアでのピッチコンテストに出場し、13件でアワードを取っている」と自信十分。ピッツバーグでも審査委員や投資家をうならせるかもしれない。

マイナー氏が「登壇した全社ともにレベルが高く、ハードウエアカップでもこうした経験は初めて。2位と3位を決めるのにも苦労した」という中で、2位に入ったのが、2018年8月設立のiXOS(イーコス、東京都港区)。「インテリジェントAIスマートディスプレイ スマコン(スマートコンシェルジェ)」を商品化した。

見た目はディスプレー付きの卓上スピーカーだが、ソフトウエアとカスタムDSP(デジタル信号処理装置)チップ、スピーカーなどハードウエアの工夫により、2・1チャンネルで3次元空間にいるかのように感じられるサラウンド音響を実現。「壁にかけると、空中に音が埋まっているような感覚が得られ、高齢者や難聴者でもボリュームを上げずに自然な音を楽しめる」(中島幸一社長)。

想定ユーザーは、病院や介護施設、それに個人。外資系レコード会社とパートナーを組み、4月ごろからヒーリングBGMの音源も提供していく。

次の機種では、スーパーツイーターで人間の耳には聞こえない100キロヘルツまでの音の再生を可能にする機能も組み込む予定。自然環境にあふれる豊かな倍音を体感でき、森林浴のような心地よい気分に浸れるという。

躍進のカギは大企業出身者

  • 海外滞在歴は30年に及ぶiXOSの中島氏

3位はクロスエッジラボ(大津市)。渡辺尚志社長はもともとパナソニックで半導体プロセスを手掛け、昨年定年退職したのを機に起業した。登記は2月5日と出来たてほやほやの会社だ。

開発した「ラビットビジョン」は、赤外線センサーで物体表面の温度分布を測定するサーモグラフィー技術を使い、プライバシーを守りつつ高齢者の見守りができる。光学系の工夫により、名前の由来となったウサギの目のように360度ぐるりと見渡せるようにしたのが最大の特徴だ。

しかもAIによる行動学習で、人が歩いたり、立ったり、眠ったりしている状態を認識可能。高齢者の生活パターンから転倒を予測し、アラームを出すこともできる。渡辺社長によれば、実証実験に向け、パートナーとなる介護施設と話し合いに入っているそうだ。

ちなみに英語でプレゼンしたのは渡辺社長の次女でCMO(チーフマーケティングオフィサー)の奈月さん。立命館大学3年で米国の大学に留学経験がある。ただ、残念ながら会社には残らず、メーカー就職志望と本人はいう。

通算4回目となる今回のハードウエアカップ。これまでは大阪での開催で京都開催は初めて。それだけに来賓としてあいさつした京都市の門川大作市長も「京都にとってモノづくりは歴史的に重要な産業。(スタートアップ支援を通じて)多くの人に京都に集まってもらい、京都から世界に飛躍していってほしい」と言葉に力を込める。門川市長は翌14日にengawa KYOTOで開かれたハードウエアカップのスポンサー向けイベントにも出席し、若手起業家のアイデアに熱心に耳を傾けながら助言も行っていた。

一方で、今回の大会がビジネスモデル、英語ともにレベルが大幅にアップしたことについて、主催者であるモノづくり起業推進協議会の牧野成将会長(Monozukuri Ventures CEO兼共同創設者)は「スタートアップの創業者のバックグラウンドが多様化し、大企業などで海外経験豊富なメンバーが起業するケースが出てきていることが一つの要因」と説明する。

  • 若手起業家との面談イベントで助言する門川京都市長(右から2人目)。右端はモノづくり起業推進協議会の牧野会長

AC Biodeやクロスエッジラボだけでなく、iXOSの中島社長はシリコンバレーでの起業経験もあり、帰国後はルネサスエレクトロニクスでIoT事業推進室長などを務めた。入賞はしなかったが、歌わない人も含めた全員参加型カラオケのドクエン(京都市南区)は任天堂出身者が立ち上げた。また前回2位に入ったmui Lab(ムイラボ、京都市中京区)はもともとNISSHAの社内ベンチャーから生まれたスタートアップ。木の表面にLEDで文字を浮かび上がらせ、タッチして画面や家電を操作できるシックなスマートホームデバイスは米国のCES2019でイノベーション賞を受賞するなど人気が高い。

「日本のハードウエアはまだまだ世界で戦える」。牧野氏はこう強調しながら「最近のモノづくりスタートアップの一つの特徴として『BtoCからBtoB(toC)』への移行が挙げられる。大企業出身者はマクロの視点から、スタートアップとしての事業や立ち位置を考えており、BtoB(toC)ビジネスではその経験が重要になる」とみる。

大企業にお勤めの皆さん、モノづくりスタートアップで世界にチャレンジしませんか。

(2020/3/2 05:00)

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