経済安保「守り」必須 新興企業に恩恵も技術流出リスク 

(2023/8/21 05:00)

重要物資確保へ国内投資・支援策は着々

経済活動のグローバル化に伴い、国際社会で経済安全保障の重要性が高まっている。米中対立などを背景に、半導体や蓄電池といった重要物資の確保を目的とした政策を各国が打ち出している。日本でも重要物資に対して国内投資や技術開発領域での支援施策が動き出した。現状、サプライチェーン(供給網)が多岐にわたる大企業への影響が大きい経済安保だが、スタートアップも蚊帳の外ではない。(小林健人)

2022年5月に成立した経済安全保障推進法に基づき、政府は同年12月、半導体や蓄電池など11分野を「特定重要物資」に指定した。経済産業省はこれまでに国内で半導体や蓄電池、産業用ロボットなどの生産基盤を強化する企業に対して助成することを決定。また、内閣府主導で経済安保上、重要な技術の開発に集中投資する「経済安全保障重要技術育成プログラム(Kプログラム)」も創設し、府省横断的な施策も進行している。

安全保障の確保に関するこれら経済施策は、スタートアップも注視する必要がある。実際、宇宙や人工知能(AI)、量子などの先端技術に関わるKプログラムには、スタートアップも数多く参画している。

「(経済安保は)スタートアップにとってメリットもある」。こう話すのは、スパイラルキャピタル(東京都港区)の直井聡友シニアアソシエイトだ。同社はAIや蓄電池開発などのスタートアップに投資するベンチャーキャピタル(VC)。

例えば蓄電池。蓄電池の導入を検討する国内インフラ事業者は、経済安保法の対象になる可能性があるため、外資系蓄電池を導入しにくい。だが、国内に製造拠点を設けた国内スタートアップは、地政学リスクの観点から外資系企業よりも導入などで有利な点がある。直井シニアアソシエイトは「我々の投資先企業でも恩恵を受けつつある」と明かす。ほかにも「風力発電タービンは外資系の市場シェアが高いが、将来の重要な電力インフラだ。国内のスタートアップがサプライチェーンの一端を担えればシェア獲得の面で有利だ」とも指摘する。

懸念主体への技術の流出リスクに対する事前対策も必要だ。法務省の外局である公安調査庁では、国内の企業や大学などの技術流出を防止するための情報発信を行っている。公安庁の原塚勝洋国際調査企画官は「近年、経済安保に関して企業からの問い合わせが多い」と話す。

特にAIや量子といった新興技術や、基盤技術となる半導体関連などは、軍民両用(デュアルユース)の観点から注視が必要だ。原塚国際調査企画官は「技術を狙う懸念主体は地方の中小企業の技術にも着目している。技術力が高い企業は規模や地域に限らず経済安保への対策が必要だ」と指摘する。

公安庁によれば、人材採用や輸出、共同研究、投資・買収といった日常の経済活動の中に懸念される活動が潜んでいるという。具体的には共同研究であれば、成果を強制的に移転することで、技術やデータといった情報を取得する動きが挙げられる。ほかには金銭的な理由で従業員が退職時に情報漏えいさせる事例などもあるという。リスクは多岐にわたる。

スタートアップの場合、投資・買収に注意を払う必要がある。スタートアップ特有のガバナンス(統治)の弱さを利用され、懸念主体と関係する投資ファンドから出資を受けることで技術が狙われる懸念がある。対策としては、共同研究契約を締結する前に契約内容を確認したり、自社の従業員と秘密保持契約を締結したり、出資者の情報収集などが挙げられる。「懸念主体が標的にする対象が技術者以外の社員まで広がっている。リスク管理を社内横断で行う必要がある」(原塚国際調査企画官)。

公安庁では商工会議所などでの講演を通じて、具体的な技術流出の事例や懸念主体による手口などの知見を産業界に広めている。同庁は「日ごろの業務で不審な点を感じた場合、公安庁へ個別に相談してほしい」(同)としている。

  •         公安庁は講演などを通じて、産業界に経済安全保障の知見を共有している(同庁提供)

重要物資や技術が供給途絶・流出すれば、経済活動への影響は甚大だ。経済安保の取り組みには、研究開発支援などの「攻め」と技術流出を防ぐ「守り」の両輪が欠かせない。技術力を持つスタートアップも対応を迫られそうだ。

(2023/8/21 05:00)

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