[ オピニオン ]
(2016/1/18 05:00)
シャープの経営再建が、なかなか出口を見いだせない。政府系ファンドの産業革新機構による支援の検討の一方で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収提案も再び浮上した。経営危機の表面化から間もなく4年。いまだに再建に向けた大きな方向性が揺れ動いているのは、シャープ自身が自社の強みを忘れてしまっているからではないだろうか。
独自デバイスを開発し、それを応用した革新的商品で需要を創造する。そこで得た知見で、次世代デバイスを開発するというスパイラル戦略。腰に手を当て拳を突き出し、鬨(とき)の声を上げるATOM(アタック・チーム・オブ・マーケット)隊。開発と営業におけるシャープの伝統だ。
シャープの強みは本来、こうしたチーム力を活用した堅実経営にある。他の電機大手が家電事業の赤字に苦しむ中で着実に利益を確保し、“勝ち組”に名を連ねたこともあった。いたずらに規模を追わないという理念を忘れ、液晶事業の拡大を急ぎすぎたことでバランスを崩し、危機に陥った。
2012年3月に発表した鴻海との資本・業務提携。受託生産世界大手の鴻海のコスト競争力とシャープの開発力を結合し、国境をまたいだ垂直統合で企業価値を高めようという戦略には、それなりの説得力があった。
当時の資料には「創業以来の創意の遺伝子を呼び起こし、スパイラル戦略を活性化させ、世の中にないヒット商品を次々と生み出す企業風土を醸成する」とある。外資との提携を起爆剤に、病魔を克服したかったのだろう。残念ながら実現に至らず、今は有力事業の切り売りばかりが注目される展開になっている。
シャープの強みは液晶だけではないはずだ。決してスマートとは言えない訪問販売の遺伝子もある。海外事業の開拓で育てた語学堪能な若手社員も少なくない。
経営再建策がどう決着するかは定かではない。しかし、どんな形にしろシャープが息を吹き返すためには、自社の強みを核としたビジネスモデルの議論が抜け落ちてはいけない。
(2016/1/18 05:00)