[ オピニオン ]

社説/消費増税の再延期−産業界は失望、成長戦略でカバーを

(2016/6/1 05:00)

安倍晋三首相は1日にも、消費税率10%への引き上げの再延期を表明する。産業界の大半は予定通りの増税を求めてきただけに、首相が自ら「日本再興」の重要な要素を先送りしてしまうことに失望を隠せない。これをカバーするだけの成長戦略と歳出削減を打ち出すことが、政府の最低限の責任である。

閣僚人事や衆議院の解散はともかく、税制は首相の専権事項ではない。まして増税となれば国民に丁寧に説明し、環境を整える必要がある。再延期は、政府の経済運営が十分な成果を上げられなかったことを認めたことに他ならない。

産業界は消費増税の再延期によって、日本経済の再生が遅れることを恐れている。国内総生産の2・3倍に達する巨額の公的債務は日本経済の足カセであり、同時に国民に社会保障制度の破たんの不安を与えている。さらに産業界が求めてきた法人税のさらなる引き下げが難しくなる懸念もある。

首相が産業界の理解を得るためには、いまだ手つかずの岩盤規制に切り込んで成長戦略を推し進めることが必要だ。農業や医療の改革、マイナンバー制度のビジネス利用の拡充など、産業界の要望に応えてもらいたい。一方で歳出削減を怠ることも許されない。消費増税分を財源に予定していた社会保障の充実も、見直しが当然だ。

そもそも国民に不人気な増税は、議院内閣制の政府が苦手とするところである。消費税は創設時も、5%への増税時にも時の内閣が支持率を失ったほど難しい政策だ。これまで安倍首相は、前政権による増税決断という“政治的遺産”を引き継いだことで風当たりが弱かった。再延期はいわば遺産を使い切り、逆に将来の責任を負ったことを意味する。

再延期後、消費税率を10%にする時期は安倍首相の任期後になる見通し。かつて小泉純一郎首相は「任期中は消費税を上げない」と早々に表明し、批判された。安倍首相が批判を免れるには明示する増税時期までに経済を活性化し、将来の政府の負担を軽くしなければならない。

(2016/6/1 05:00)

総合4のニュース一覧

おすすめコンテンツ

今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい空気圧の本

今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい空気圧の本

技術士第一次試験「機械部門」専門科目過去問題 解答と解説 第9版

技術士第一次試験「機械部門」専門科目過去問題 解答と解説 第9版

誰も教えてくれない製造業DX成功の秘訣

誰も教えてくれない製造業DX成功の秘訣

電験三種 合格への厳選100問 第3版

電験三種 合格への厳選100問 第3版

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

NCプログラムの基礎〜マシニングセンタ編 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

金属加工シリーズ 研削加工の基礎 上巻

Journagram→ Journagramとは

ご存知ですか?記事のご利用について

カレンダーから探す

閲覧ランキング
  • 今日
  • 今週

ソーシャルメディア

電子版からのお知らせ

日刊工業新聞社トピックス

セミナースケジュール

イベントスケジュール

もっと見る

PR

おすすめの本・雑誌・DVD

ニュースイッチ

企業リリース Powered by PR TIMES

大規模自然災害時の臨時ID発行はこちら

日刊工業新聞社関連サイト・サービス

マイクリップ機能は会員限定サービスです。

有料購読会員は最大300件の記事を保存することができます。

ログイン