[ 機械 ]

5軸マシニングセンターの加工精度を確保するためには

(2016/10/14 12:00)

 5軸マシニングセンター(MC)に代表される多軸制御工作機械がますます注目されてきている。加工の柔軟度を増すための導入が進んでいるが、以前は5軸制御でないと加工できないもの限定で使用されてきた。ところが、昨今は5軸対応のコンピューター利用製造(CAM)が手近な存在になり、金型加工など、より良い条件で加工できるといった特徴を利用して加工する事例が増えてきた。ここでは、こうした5軸MCのユーザーが加工精度を確保していくために必要となる、精度検査の動向について述べる。

◇大阪工業大学 工学部機械工学科 教授 井原 之敏

「精度が悪い」のか?―精度検査の動向

 5軸MCを語る上で必ず出てくる話として、「精度が悪い」という項目が挙げられる。最終的な加工精度が良くないということであるが、その原因として、機械の精度そのものが悪い場合、または加工条件などの使い方が悪い場合があったと思われる。前者の機械の精度そのものが悪い原因については、付加された旋回2軸についての検査方法が確立していないためだとも言われてきた。

 5軸MCの精度検査方法は2003年ごろから日本工作機械工業会で規格を提案するプロジェクトが始まり、長い年月をかけて、14年度末に国際標準化機構(ISO)規格が発行された。まもなくJIS規格としても発行される予定である。このプロジェクトを進めていくに当たって、さまざまな研究・実験が行われ、「精度が悪い」詳細についても明らかになってきた。簡潔に言うと、旋回2軸の絶対位置をしっかりと把握していないと加工精度が保てないということである。

テーブル旋回形5軸MCの落とし穴

  • 図1:テーブル旋回形5軸MCの例。主軸先端からテーブルまでの経路が長く、熱変位などが生じやすい

 大型航空機部品の製作に使用されている、主軸側に旋回軸があるタイプの5軸MCは、外国製が多かった。日本メーカーは、より小型の、テーブル側に旋回軸がある5軸MCを得意としていた(図1)。このタイプの機械は、回転テーブル自体の精度調整が容易であり、主軸旋回型の機械よりは精度を保ちやすいと考えられてきた。しかし、同時5軸加工で必要となる旋回軸の絶対位置が熱変形や経年変化により、狂いやすいという特徴がある。このことは、昔から5軸加工を専門としている業者にはよく知られていたのだが、そのことを知らずに加工すれば「精度が悪い」という結果になる。

 旋回軸は直進軸と平行になるように設計されているが実際には角度誤差が存在する。ただ、その誤差は小さく、数値制御(NC)補正をするまでもないことが多い。それに比べ位置の誤差はNCのパラメーターとして保存されているので、この値を適正な値に設定すれば精度は向上する。

  • 図2:Renishaw社のAxiSet

 12年に開催されたJIMTOF(日本国際工作機械見本市)で、ようやく機械メーカーが機械に備え付けのタッチセンサーを用いてパラメーターを調整するアプリケーションを発表し、ユーザーにもよく知られるようになった。同様のアプリケーションは機械メーカーだけでなく、タッチセンサーのメーカーなども発表している(図2)。

 タッチセンサーがなくても、マスタ球とダイヤルゲージなどで可能であり、新しいISO規格にその測定方法が記載されている(調整方法の記載はないが)。繰り返しになるが、高精度加工の直前には必ず旋回軸の位置確認が必要である。

R-test装置に期待

 新しいISO規格には前述したように、旋回軸と直進軸の位置関係を測定する方法が記載されている。その際に使用する測定装置としては、「R-test装置」として知られている、三つの変位計と基準球を使用するものがある。最近改正された「JIS B 6190―1」にも紹介されている。

 この装置は球の中心位置の誤差を読み取るものであり、使用する変位計の読み取り範囲は大きくて1ミリメートル程度とごくわずかのため、装置を適当に製作しても測定誤差は大きく現れない。また、三つの変位計の読みをXYZ方向に変換する数式も単純な一次変換行列計算により可能である。

  • IBSの非接触式「R-test」装置

 ただし、この装置は現在のところ、イタリアのFIDIAとオランダのIBS Precisionが特許を持っているため、手製の装置を業務で使用することができない。IBSは非接触タイプのR-test装置を市販しており、これを使用することになる。

 R-test装置を使用した5軸MCについてのさまざまな研究が行われているが、筆者が使用したところ、テーブル旋回形の5軸MCの旋回軸の誤差はあまり大きくなく、直進軸の運動誤差が現れることが多い。現在では補間運動精度誤差はボールバーによる測定が多く行われているが、ボールバーの場合は変位計が一つのみであり、取得できる誤差は限られている。

 それに対して、R-test装置の場合は3方向の誤差が取得できるため、この装置をうまく使用すれば機械の精度向上が期待できる。具体的には、ボールバーで測定される誤差で機械の補正に使用されるのは象限切り換え時の段差(バックラッシュ補正)や突起(摩擦補正)などであるが、これは運動方向の誤差である。

 それ以外にも、リニアガイドの上下運動など、真直度誤差成分が発生することがあり、これに対しては今までNC補正はほとんど行われてこなかった。NCも高性能化しているので、真直度誤差などもきちんと測定できれば、NCで補正して機械の高精度化を図ることができる。また、回転装置を工夫すれば5軸制御機だけでなく3軸制御機の運動誤差を測定する装置としても使用できるかもしれない。

 ボールバーはレニショーが使い勝手のよい製品を安価に市場に供給して、爆発的に広まった。R-test装置についても同様に適当な価格で、使い勝手のよいソフトウエアを開発してさまざまな用途に使用できるようになることを期待している。

(2016/10/14 12:00)

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