[ 政治・経済 ]
(2016/12/10 05:00)
環太平洋連携協定(TPP)承認と関連法案は9日の参院本会議で可決、成立した。TPP発効には米国の参加が不可欠。だが、トランプ米次期大統領はTPPに加わらないことを明言しており、「保護主義を食い止める」(安倍晋三首相)という日本政府の姿勢を世界に発信するという色合いが濃くなった。今後は日・欧州連合(EU)間の経済連携協定(EPA)など他の協定交渉を進めつつ、長期にわたり米国との経済協定を模索することになる。
TPPの取り決めでは、一部の参加国が2年以内に国内手続きを完了できない場合、全体の国内総生産(GDP)の85%を占める国が同意すれば発効できる。つまり、日本と米国が抜けるとこの水準に達しないため、TPPを発効できない。
そのため、今会期での承認見送りを主張する声も野党からあったが、安倍首相をはじめとする政府の強い意向で成立にこぎ着けた。
当面、トランプ氏がTPP不参加の考えを翻意する可能性は低いため、政府はあらゆる可能性を含めて通商戦略を練る必要がある。
政府はまず日EU・EPA交渉を加速させるなど、他の交渉を推進する考えだ。政府幹部によると、日EU・EPAは「最終的な合意の手前まで来ており、年内合意に向け努力している」と明かす。
日EUのEPA交渉など進め、米国の再考促す
他のEPA交渉を進めることは、米国への圧力にもなる。「日EU・EPAが実現すれば、EUから日本向けの乳製品などの関税が安くなり、米国産は不利になる」(安倍首相)。また発行済みの日豪EPAにより、豪州産の牛肉などの関税が下がり、高い関税がかかったままの米国産は相対的に不利になっている。こういった多面的な展開で次期米政権にゆるやかな圧力をかけ、通商戦略について再考を迫ろうとする構想だ。
次に豪州などが主張するようになった「米国抜きのTPP」の検討だ。日本は米国が不参加だと経済的なインパクトが減るなどとして受け入れていない。
だが、TPPには関税の削減・撤廃だけでなく、外資の出資制限を緩和する取り決めなど、東南アジアへの進出を考えている日本の小売業界などにもメリットがある。ソフトウエアを輸出する際にソースコード(ソフトウエアの設計図)の移転を要求する行為も禁じるなど、IT業界も海外展開しやすくなる。
そのため、米国以外の参加国でまずTPPを発効し、その後に米国の参加を待つというシナリオも検討する価値はある。
また、伊藤元重学習院大学教授は、「TPPと似たような協定が形を変えて将来実現する可能性もある」と指摘する。いずれにしても政府は5-10年先を見据え、通商戦略を再設計することとなりそうだ。
(2016/12/10 05:00)