[ オピニオン ]
(2017/1/23 05:00)
■「わが道を行く米国」リスクに
ドナルド・トランプ米大統領の誕生で、世界は「分散の時代」に突入する。「アメリカ・ファースト」は排他的国家主義を意味し、東西冷戦後における唯一の指導国という特権を放棄する可能性が高まる。米国を中核に先進国が一枚岩となり世界の政治や経済、安全保障を主導してきた20世紀モデルはもはや終焉(しゅうえん)。中国など新興国の台頭も相まって、先進国に集中していた権力は分散・細分化の道をたどる。米国発の政治リスクは国際秩序を大きく変貌させることになる。
「独立した米国」―。毎年1月、その年の世界の十大リスクを発表する米ユーラシア・グループ。今年最大のリスクに挙げられたのが「わが道を行くアメリカ」だ。
リポートにはこう記されている。「安全保障、貿易および価値の推進における米国のヘゲモニー(支配権)が、世界経済の防壁として機能した『パックス・アメリカーナ』(米国による平和)も終わりを迎える」。同グループを率いる政治学者のイアン・ブレマー氏は「Gゼロ(主導国なき世界)が本格的に到来した」と断言。トランプ・アメリカが世界リスクに発展する可能性を指摘している。
強大なリーダーの不在は世界が培ってきた国際秩序を乱す恐れがある。第二次大戦の教訓から発足した国連や世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)といった国際機関は数多くの国が価値観を共有し、連携しながら秩序の維持や向上を目的に発足した。しかし、トランプ大統領は自由貿易体制の象徴に位置づけられる環太平洋連携協定(TPP)の離脱に加え、北大西洋条約機構(NATO)の存在すら疑問視している。世界が集中・連携することで初めて構築された安全保障や経済連携が揺らぐ危険性がある。
「世界企業にとって国境は消えるインクで書かれている」との特集を米誌が企画したのは半世紀前の1968年のこと。経済のグローバル化は、モノや資本の自由な移動を促すだけでなく、今では政治リスクも世界に“輸出”している。昨今の英国の欧州連合(EU)強硬離脱や大統領の“つぶやき”で世界の金融市場は大混乱に陥っている。
世界経済の成長期には国際政治が同じベクトルに収斂(しゅうれん)される半面、危機に直面する時は国際政治が分散する傾向が強い。トランプ大統領がわが道を闊歩(かっぽ)すれば、ポピュリズムやナショナリズムが渦巻く世界をより不安定な姿に追い込む。超大国による気ままな振る舞いは許されない。
(2017/1/23 05:00)