[ 機械 ]
(2017/7/5 12:00)
多様な分野で炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の採用が広がり、量産プレス成形技術が注目されている。量産するためには、金型とプレスが不可欠である。熱硬化性CFRPにおいては、炭素繊維を所定の形状にプレスした後、金型内で樹脂を注入固化させる。熱可塑性CFRPにおいては、あらかじめ樹脂を炭素繊維に浸み込ませ、樹脂が溶融状態にあるうちに金型でプレスし、金型内で冷却させる。
【金沢大学理工研究域機械工学系 教授 米山 猛】
炭素繊維は軽量で強度が高いことから、CFRPとして活用されている。ドイツのBMWが自動車ボディーの大部分をCFRPで製作した自動車の量産を始めている。量産においては金型とプレスがカギとなり、CFRPのプレス成形が着目されることになる。
CFRPには熱硬化性樹脂を用いるもの(熱硬化性CFRP)と、熱可塑性樹脂を用いるもの(熱可塑性CFRP)があり、現在までのところ熱硬化性CFRPが先行し採用されている。さらに量産を進めるためには、熱可塑性CFRPが必要だと考えられており、プレス成形に関する研究もさかんに行われている。ここでは、熱硬化性CFRPに簡単に触れた後、熱可塑性CFRPのプレス成形について紹介する。
熱硬化性CFRPのプレス成形
熱硬化性CFRPの量産方法として用いられているのは、RTM法(Resin Transfer Molding)と呼ばれる。樹脂を含浸させていない炭素繊維の束やシートを金型で成形する形状に予備成形し(その際、炭素繊維を束ねている熱可塑性樹脂などで仮止めする)、その後、成形体を別の金型内に入れ、そこに樹脂を注入して固化させる方法である。
最近では3分以内で固まる熱硬化性樹脂が開発されており、生産サイクルの短縮化が進んでいる。
熱可塑性CFRPのプレス成形
熱可塑性CFRPは加熱すれば樹脂が溶融して変形が可能であり、冷却すれば成形品が取り出せるので、将来の量産におけるCFRPとして期待されている。一般に熱硬化性CFRPと比べて衝撃吸収特性もよく、リサイクルにも適していると言われている。
しかし、熱可塑性樹脂は溶融温度に上げても粘性が高いため、炭素繊維の束の隙間に浸透しにくい。熱可塑性CFRPプレス成形方法の代表例を図1に示す。
プレス成形方法として考えられる一つ目は、あらかじめ熱可塑性樹脂を浸み込ませたCFRPのプレートを作成しておき、これを用いて金型でプレス成形する方法(スタンピング成形)である。もう一つの方法は板材を作らずに、炭素繊維と熱可塑性樹脂を混ぜあわせたものをそのまま金型の中に入れてプレス成形する方法(LFT―D、長繊維のダイレクト成形)である。
筆者らが成形した例を図2に示す。平織の炭素繊維に熱可塑性樹脂ポリアミド6を含浸させたシート(スタンパブルシート)を積層し、加熱した状態でプレス成形したもので、成形後にさらに部分的に加熱して、再度プレスで接合して閉断面ビームを作成した。
またスライド金型を用いて、サーボダイクッションで側壁を加圧したU字ビームも作成している。樹脂が冷却する際には熱収縮が起こるため、冷却過程において樹脂と炭素繊維との密着性を維持するように加圧することが重要なポイントである。
今後の展望
炭素繊維は連続繊維のまま使用するのが最も強度が高いが、連続繊維だけでは成形できる形状に制約がある。このため繊維の長さをある程度にカットしたものを用いて、リブなど複雑形状の成形を可能にすることが研究されている。今後は従来の方法をさらに融合して、任意の形状を高速で成形する方法の開発が進むと考えられる。
(2017年4月12日 日刊工業新聞 掲載「INTERMOLD・金型展・金属プレス加工技術展」特集より)
(2017/7/5 12:00)