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(2018/6/17 07:00)
彼の名は「さかい三十郎」。正義感にあふれた庶民派である。そんな彼が出張時に出会ったノンフィクションのハプニングを「小さな事件簿」としてつづったのが本連載である。
「本当にそんなことが新幹線内で起こるの? 信じられないなぁ…」との思いで読まれる方も多いかもしれないが、すべてノンフィクション(事実)なのである。彼の大好きな「映画の話」もちりばめてあるので、思い浮かべていただければ幸いである。
それでは車内で遭遇した事件簿の数々をご紹介させていただく。
* *
真夏に新幹線の冷房が故障した!
それは8月、真夏の出来事であった。金曜、土曜に開催した広島工場での展示会を終え、日曜の朝、広島駅から乗車した車両内で事件は起きた。三十郎と同乗したのは、当時京都工場のショールーム責任者であった桝井さんである。
当時、三十郎は30代で酒に煙草に小遣いを多用し、「俺は多額納税者だ!」と、いきがっていた頃の話である。3号車に乗車し、ひかり号は発車した。岡山近辺を通過しようとしていた頃から、車内に異常が発生した。
「暑い。車内が息苦しくなってきた」
「これはどうしたことだ」
やがて車掌のアナウンスが流れた。
「3号車の冷房が故障しています。乗車の皆様にはご迷惑をおかけしますが、他の車両へご案内しますので、ご移動くださいますようお願いします」
車掌の案内で乗客は移動を始めた。8月の車内に冷房は必須であり、当然の行動だ。移動する乗客を横目に、2人だけは慌てる仕草も見せず悠然と構えていた。喧騒が収まり車内が静かになった時、車掌が2人に向かってきて声をかけた。
車掌「申し訳ありません。他の号車も満席となり、ご着席してもらう車両がありません」
車掌が精一杯の乗客対応をしたことは、制服に汗が染みていることでもわかった。三十郎はネクタイを取り、ワイシャツも脱ぎ捨て、ランニングシャツ1枚となり態勢を整え、そして、桝井さんに声をかけた。
「桝井さん。今日は貸し切りですよ」
「新幹線を車両ごと2人で貸し切るなんて、2度とできませんね」
「暑いのぐらい我慢して、ゆったりと行きましょう」
同意した桝井さんも三十郎と同様に服を脱ぎ捨てた。そして、おもむろに広島駅ホームで購入していた缶ビール2本をあけ、乾杯した。しばらく過ぎた頃、例の車掌がやって来た。車内は相変わらず2人だけである。
車掌「大変ご迷惑をおかけしています。ご協力いただきありがとうございます」
車掌は2人に声をかけ、そして、去って行った。彼はわれわれの座席に袋を置いていった。そこには見なれたモノが入れられていた。缶ビール6本セットである。そこで、三十郎がつぶやく。
「いや、粋な車掌もいるものです。嬉しいですネ」
2人は思わず相打ち、出張ならぬ小旅行気分とあいなった。世の中捨てたものではない、と感じた次第である。
事件始末記
桝井さんは京都で下車し、「東京までは一人旅か……」と覚悟していたが、名古屋駅から若者5人が侵入してきた。冷房が効かないことを承知の上で……。3人席を回転させ、車座となり、ワンカップを酌み交わし、ひかり号はターミナルへと進んで行った(彼らは5人相席の指定が取れなかったのであろうが、良き車内空間時間を楽しませてもらった)。
余談であるが、三十郎はこんな異常に出会っている。停電で1時間車内缶詰め状態、大雨や地震の影響で一時運転見合わせ……などである。こんな時の打ち手はただ一つ。特に、子供連れの方は実行してほしい。
『車内売店の飲み物と弁当を早期購入すること』
三十郎の仕事上のパートナーである荒井さんは「たまに乗車すると大雨で停車する」ジンクスを持っている。
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車掌が登場する映画といえば、まず、フランキー堺が主演した「喜劇○○旅行シリーズ」が思い出される。1968年から72年にかけて11本製作されている。
また、渥美清主演「喜劇○○列車シリーズ」は1967年に3作製作されている。監督はいずれも瀬川昌治である。停車した車中に逃亡犯人がいたら逮捕される。これは「死刑台のエレベータ」だ。
(雑誌「型技術」三十郎・旅日記から電子版向けに編集)
(2018/6/17 07:00)