(2020/9/11 05:00)
「日本人は水と安全はタダと思っている」。作家のイザヤ・ベンダサンは『日本人とユダヤ人』でこう述べた。蛇口をひねれば水が勢いよく出て、そのまま飲用できる。世界でも恵まれた環境だ。
しかしその潤沢な水は、水道法で定められた水質基準に基づいて自治体水道局などの事業者が水質を管理し、各家庭まで供給されている。安全の背後には、法律というルールが存在する。
米トランプ大統領が、新型コロナウイルスのワクチンについて、新薬に課された厳格なルールを逸脱して、臨床試験前のワクチンの例外的な投与を認める方針を示した。「特別な日よりも前に(接種)できる可能性」「オバマ政権時代なら3年はかかった」と述べたことで、大統領の思惑が透けて見える。
世界の製薬大手9社が「臨床試験を順守し、安全性と有効性を確認した後に申請する」との共同声明を発表した。さらにワクチン開発の先頭を走る英アストラゼネカは、有害事象が1件発生したとして、治験を一時中断した。
ルールを守ることで安全は担保される。世界のワクチン開発競争は、国の指導者までをも迷わせている。間もなく決まる日本の次期トップにも肝に銘じてもらいたい。
(2020/9/11 05:00)