(2023/1/24 05:00)
岸田文雄首相は国民的議論を置き去りにした防衛政策の内容を通常国会で丁寧に説明し、懸案の財源についても審議を尽くしてもらいたい。不透明感が残る反撃能力のあり方や、将来世代に負担を先送りしない財源を示すことは政権の責務である。
改定された安全保障関連3文書には、弾道ミサイルを日本に発射した敵基地をたたく反撃能力の装備を盛り込んだ。ただ反撃能力を行使するタイミングが不透明で不安が残る。相手国が攻撃に着手した時点なのか、ミサイルが日本に着弾した時点で反撃するのか。岸田首相は安全保障上の「機微に触れる」として回答を避けている。だがタイミングを誤れば、先制攻撃と見なされ国際法違反となる。そもそもどこまで抑止効果を期待できるかも読みにくい。国民の不安を拭い、理解を得る努力を政権は怠ってはならない。
防衛費の増額に充てる恒久財源も確保する必要がある。2027年度までに追加で約4兆円の財源確保が求められる。政府・与党は法人税や所得税などの増税、歳出改革、国有地売却益、決算剰余金などを想定する。だが増税と歳出改革を除くと、一時的な歳入であって恒久財源ではない。増税を可能な限り抑えつつ、踏み込んだ歳出改革により財政規律を順守したい。
自民党内には増税に反発し、「60年償還ルール」と呼ばれる国債の償還方法を見直すことで財源を確保すべきとの指摘もある。国債残高の約60分の1(1・6%)を毎年償却するルールについて、80年償却に延長して約4兆円を確保する案やルールの廃止が党内で浮上する。ただ償還を先送りした分は借換債を発行する必要があり、国債発行額は変わらない。むしろ「市場の信認を失う恐れがある」(鈴木俊一財務相)ほか、国債依存は将来世代に禍根を残しかねない。慎重な議論を求めたい。
東アジアの安保は、防衛力増強による抑止力だけでは確保できない。中国とは間断のない意思疎通に努め、緊張緩和につなげる外交こそ日本に求められている。「対立」の一方で新たな「協力」関係を模索したい。
(2023/1/24 05:00)