[ 機械 ]

【別刷特集】マシニングセンターにおける高能率・高精度加工の研究開発動向

(2016/12/15 11:00)

 マシニングセンター(MC)と数値制御(NC)フライス盤の違いは何だろうか。自動工具交換装置を持つことがMCの要件であると筆者は大学の講義で習った。MCは1958年に米国で登場して以来、改良が続けられ、今日では工業製品の生産に欠かせない機械となっている。高能率で高精度の加工への要求から、機械にはより高速での運動精度と振動の低減技術が求められてきた。ここでは、高能率で高精度な加工を支える最近の技術と研究の動向を、筆者らの研究例を交えて紹介する。

◇京都大学工学研究科 助教 河野 大輔

  • 図1 マシニングセンターの真直度の測定例

高速・高精度な運動を支える送り系技術

 高能率で高精度な加工を直接的に支える技術として、高速での運動精度を実現する送り系の技術がある。筆者が工作機械に関わるようになったこの十数年間では送り系のハードウエア構成は大きく変化しておらず、ボールネジ駆動系に直動転がり案内を組み合わせた送り系の採用が多い。

 送り速度の高速化は見られないが、直動転がり案内とボールネジの性能向上により、最近ではストロークを限定すれば、普及機でもサブミクロンレベルの真直度が達成されている例もある(図1)。

 転動体の転がりと循環に起因する振動や摩擦力の変動を低減し、より滑らかな運動を目指した技術開発が今後も続くと考えられる。

 ソフトウエアである制御技術もコンピューターの性能向上に伴って進化している。演算や通信の速度向上により、サーボループの高ゲイン化や微小線分パスの処理能力向上などが達成されている。最近では、高速・高精度に加えて滑らかな運動がキーワードとなっており、許容される誤差内で急激な加減速を減らした運動を行うためのトレランス制御などが注目されている。

 また高速・高精度な運動のためには制御パラメーターの調整も重要だが、送り系の応答を測定し、ユーザーがパラメーターの調整を行うためのツールも充実してきている。

  • 図2 加工反力によって生じる振動

高能率な加工と振動問題

 より高能率な加工を目指す場合、加工反力と送り系の加減速によって生じる振動が必ず問題となる。加工反力によって生じる振動は強制振動と自励振動に大別されるが、どちらの場合でも工具+機械+工作物で構成されるループの動剛性の影響を大きく受ける(図2)。

 よく注目されるのは、前加工面の振動痕によって自励振動が発生する再生ビビリ振動である。再生ビビリ振動に関する研究は70年ほど前から始まり、現在では関係する理論は整っている。研究成果は製品に応用されており、振動状態をモニタリングしてビビリ振動を避ける加工条件を提案する、もしくは自動的に回避するシステムなどが実用化されている。

 再生ビビリ振動だけでは説明できない振動も多く、モードカップリング型のビビリ振動など、さまざまな自励振動のメカニズムとその対策が、現在でも継続的に研究されている。

  • 図3 送り系の加減速によって生じるロッキング振動

 送り系の加減速では駆動力とその反力によって、低い周波数での機械の固有振動が生じる。よく生じるのは図3に示すような機械全体のロッキング振動であり、ベッドやコラムなどの構造体の変形によって、工具と工作物の間に相対振動が生じる。

 ロッキング振動の固有振動数は支持部の剛性の影響を大きく受けるが、固有振動数が高いほど振動が小さいとは限らない。

 加減速によって励起(れいき)されにくく、かつ構造体の変形を小さくするためには、加減速パラメーターや構造体の振動特性とのバランスを考えて、支持部の剛性を適切な値に調整する必要がある。

 加減速時間が延びることを許容するならば、加減速フィルターによってロッキング振動を励起しないように調整することも可能である。

高能率で高精度な加工のための研究

 筆者らの研究グループでも、高能率で高精度な加工のために、特に機械の構造振動の低減とそのためのモデル化に取り組んでいる。研究例としては、先に述べた送り系の加減速による振動を低減するための、支持部の剛性調整と高減衰化に関するテーマがある。支持部の剛性は機械の自重やアンカーボルトの締結力によって支持部にかかる荷重に依存する。これは接触部の剛性の影響のためである。

  • 図4 支持部の荷重と垂直方向の剛性の関係例

 荷重依存性を考慮した支持部の剛性モデルによる、荷重と剛性の関係の例を図4に示す。荷重が増加すると剛性も増加するが、一定以上の荷重がかかると剛性が飽和する。支持部の剛性を調節する際には、この荷重と剛性の関係を考慮することが必要である。

 例えば、機械の自重のみの荷重が作用している場合(つまり全ての支持部にかかる総荷重が一定の場合)に剛性を大きくするなら、荷重を無駄にしてはいけない。つまり各支持部の剛性が飽和しないように、支持部の数などによって荷重を調整した方が、トータルでの剛性が大きくなる。この方法によって剛性を所望の値に調整した後、減衰機構を設置することで、支持部の減衰性を高める研究も行っている。

 最近では、加工反力によって生じる振動の低減を目的として、工具+機械+工作物のループ剛性における機械剛性の異方性の影響を調査している。加工反力はさまざまな方向にかかるが、機械剛性は方向によって異なる。例えば立型の工作機械では、垂直方向の剛性が大きく、水平方向の剛性が小さいことが多い。もし極端に剛性が低い方向があると、加工能率が制限されてしまう。そこで機械剛性の異方性を可視化し、機械の設計や加工戦略の立案に役立てる研究を行っている。

  • 図5 立型マシニングセンターにおける機械剛性の異方性の測定例

 図5は機械剛性の異方性を示した例である。コラムがねじれる振動モードのために、X方向での剛性が他の方向と比較して低くなっている。機械剛性の異方性への対策としては、有限要素法などの解析による異方性を考慮した設計が有効である。

特に5軸制御工作機械では、回転軸の姿勢によって機械剛性が大きく変化するため、異方性を考慮した設計が重要となると考えている。既存の工作機械の場合は、繊維強化複合材料などの異方性をもつ材料を用いて弱い部分を強化することで異方性を小さくできる。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/12/15 11:00)

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