[ 地域経済 ]

モノづくり、日本に学べ−中国企業が大阪に拠点開設、グローバル化の第一歩に

(2017/6/13 05:00)

中国の企業が日本、しかも大阪に製造拠点や研究拠点を設置しようとする動きが出始めている。最近では広東省の家電メーカーが日本向けに電子レンジの開発を始め、上海のブラシメーカーは初の自社ブランド歯ブラシの生産を開始した。なぜ人件費の高い日本にわざわざ拠点を置くのか。そこからは最近の中国の消費者や経営者の意識の変化が垣間見られる。(大阪編集委員・青木俊次)

  • ギャランツ集団の家電製品

【自社ブランド】

大阪商工会議所や大阪府・市で構成する大阪外国企業誘致センターによると、2001―16年度の海外企業の大阪への累計誘致実績は464件に上る。ただ目的が製造・研究開発とするのは累計でもわずか18件。しかし15年と16年の最近の2年間だけで6件を占め、うち4件が中国だ。

中国・広東省の家電メーカー格蘭仕集団(ギャランツ)は16年1月、海外では初となる研究拠点(ギャランツジャパン)を大阪市北区に設けた。ギャランツは電子レンジの生産で世界シェアの半分近くを占めるが、8割がOEM(相手先ブランド)供給。2割の自社ブランドをどう先進国で拡大し、グローバル化するかが課題となっている。

そこで白羽の矢を立てたのが日本。中国内での開発では難しい、先進各国の食文化に応じた製品を開発するのが狙いだ。

4月から日本向け電子レンジの開発を始めたが、他の調理家電にも手を広げる計画だ。また大学や企業と連携し、部品事業の強化にもつなげる。「部品加工や表面処理、要素技術などに優れた日本の家電関連企業や研究機関と連携し、本国集団の設計や製造現場に還元したい」(香島光太郎所長)と意気込む。

ブランド確立とグローバル化の第一歩を日本で歩み始めたギャランツは、日本で高級機を量産する可能性も視野に入れる。

  • 歯ブラシの包装作業(慎興ブラシ)

【「良い製品」】

「良い製品を作りたい」と日本に製造拠点を設けたのは、上海市の上海慎興ブラシだ。歯ブラシを含む各種ブラシをOEMで年間1億本製造し、7億円を売り上げる同社は、16年3月に大阪市生野区に日本子会社として慎興ブラシ(汪霖社長)を設立し、日本で生産した商品を中国に輸出する計画だ。

「中国では生活レベルが向上し、少々高くてもキズや汚れのない良品を求め始めた。そのため企業もOEMや大量生産による安売り競争に限界を感じ始めた」(汪社長)と国内意識の変化を説く。

中国の歯ブラシ業界では価格競争が激化したが、その結果「値段が安い企業ではなく、品質の良い企業が残った」(同)という。

同社は7月から日本で植毛・包装した初の自社ブランド歯ブラシ「ワンサード」を中国で販売する。初年度1億円、2―3年後には年2000万本を生産し、6億円を目指す。日本の生産技術や経営手法を学びながら、自社ブランドで中国市場に挑み始めた。

大阪外国企業誘致センターによると、16年度に研究開発・製造を目的とした海外企業の進出は4件。そのうち中国からは2件ある。健康食品を国内製薬メーカーに製造委託し、中国へ輸出するグリーン・シャイニー(大阪市東淀川区)と、新型セラミックス材料の研究開発に取り組むe―lite(大阪府八尾市)が日本での研究・製造に向けて動き始めている。

【進出続く】

中国企業の大阪進出はまだほんのわずかだが、日本のモノづくりを学び“良い製品”を作って中国市場に挑む職人気質の中国人経営者は着実に増えている。日本の中小企業がグローバル化を進める際、中国系企業との連携も重要になりそうだ。

  • ギャランツジャパン所長・香島光太郎氏

≪ギャランツジャパン所長・香島光太郎氏/技術連携に期待≫

香島光太郎所長に拠点設置の経緯や今後の取り組みを聞いた。

―大阪へなぜ研究所を設置したのですか。

「ギャランツ集団の梁昭賢総裁は食文化、調理器具、家電製品など、日本のモノづくりに敬意を抱いている。中でも関西は関東に比べて家電メーカーが集積し、関連技術の高い協力企業も多く、技術連携や人材確保がしやすいと判断した」

―具体的な使命は。

「一つは調理家電の設計開発。4月に10人で日本向けの電子レンジの開発を始めた。大学や研究機関、中堅・中小企業との連携も進めたい。部品の加工法、表面処理・要素技術などで連携し、本国の設計・生産部門へフィードバックしたい」

―将来ビジョンは。

「とがった製品の開発を心がける一方、新しいモノづくりや設計思想を含め、設計段階からの標準化・自動化にも取り組む。日本はギャランツの自社ブランドの確立・拡大の課題を解決するグローバル展開の橋頭堡(ほ)として期待は大きい」

  • 慎興ブラシ社長・汪霖氏

≪慎興ブラシ社長・汪霖氏/本国製品の質向上≫

汪霖社長に大阪進出の理由や今後の取り組みを聞いた。

―なぜ大阪に工場を。

「中国でも消費者は良い製品を欲しがる。安い人件費を求め東南アジアに出ても品質は上がらない。日本では生産技術や経営手法が学べ、品質も高められる。特に八尾市は歯ブラシの産地だから」

―日本ではどんな製品を手がけますか。

「本国で作った毛や柄を原料に植毛・包装した歯ブラシ『ワンサード』を年間600万本生産する。初めての自社ブランド製品だ。中国製(約200円)より高く日本製(約600円)より安い1本約300円で販売する」

―日本での生産に何を期待しますか。

「同じ材料と機械でも日本での方が品質がよく、きれい。日本製の力は健在だ。本当に良いモノを作りたいから日本を選んだ。本社の社員を日本で定期的に研修し、本国の製品の質を高めたい」

(2017/6/13 05:00)

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