[ オピニオン ]
(2017/8/31 05:00)
〈それは岩峰と岩峰を数限りなく重ねて作り上げられた険しい山であった。美しさより、山の険しさが視界いっぱいに拡がる巨大な岩山だった〉。作家の新田次郎は『剱岳−点の記』(文春文庫)でこう描く。
剱岳(つるぎだけ)(富山県)は登頂の難しさで知られ、断崖絶壁が囲む頂上は長く人を寄せ付けなかった。記録に残る初登頂は1907年(明40)。点の記の主人公・柴崎芳太郎が率いる陸軍測量隊が、大雪渓を登る荒業でようやく成し遂げた。
1910年(明43)創業の銀盤酒造(富山県黒部市)が日本酒『剱岳』を9月1日に発売する。「富山の名峰にあやかり、人気の高い商品に育てたい」と社長の田中文悟さんは語る。
清酒業界は純米酒や吟醸酒の好調が続く一方、普通酒は出荷量が減少している。同社も業績悪化と後継者不在に伴い、昨年6月に阪神酒販(神戸市兵庫区)の傘下に入った。新製品投入は経営再建策の一環であり、純米酒や吟醸酒を強化する。
柴崎隊は山頂で、奈良時代から平安時代の作と推定される銅製の錫杖(しゃくじょう)と鉄剣を発見し、1000年以上前に修験者が征していたことを明らかにした。新製品は、そんな先人の情熱を密かに伝えつつ、そびえ立つ存在になるよう願う。
(2017/8/31 05:00)