[ オピニオン ]
(2017/9/4 05:00)
2007年に世界遺産に選ばれた島根県の石見銀山を訪れた。坑道内は頼りなげな照明を外れれば真っ暗で、至る所に水たまりがあるなど足元も悪い。こんな場所で往時は手作業で銀鉱石を掘っていたのだから、人間とは実に欲深い。
面白おかしく案内してくれた現地ガイドは、最後に「産業遺産の魅力を分かってもらうのはとても難しい」と嘆いた。確かに暗い穴の中をひたすら歩くツアーは、風光明媚(めいび)を求める“観光”とは趣が異なる。解説なしに歴史的な価値は理解しにくい。
大手旅行会社の楽天トラベルの調査によると、日本の世界遺産の人気ランキングは1位が古都京都の文化財、2位が厳島神社。一方で18位が石見銀山、19位が富岡製糸場と、産業の歴史を伝える遺産は下位に甘んじている。
石見銀山の場合、観光客にはなるべくガイドを利用するように勧めている。とはいえ料金もかかるだけに、二の足を踏む人も多いだろう。
苦労して世界遺産に選ばれても、それだけでは産業遺産の価値は伝えられない。面白くてためになる話ができるガイドの存在が、地域の発信力を高め、旅の思い出を生む。そんなガイドを手軽に利用できる工夫がほしい。決して、欲深い要求ではないと思う。
(2017/9/4 05:00)