[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/ノーベル賞級の成果へ、研究の広いすそ野や環境づくりを

(2017/10/5 05:00)

ダイナマイトを発明したスウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて「人類の福祉に最も貢献した人々」に授与されるノーベル賞。毎年10月初旬に受賞者名が発表され、授賞式はノーベルの命日に当たる12月10日にスウェーデン・ストックホルムのコンサートホールで行われる。

生理学医学、物理学、化学の自然科学3賞は2014年が青色発光ダイオード(物理)、15年がニュートリノ振動(物理)と感染症に対する新たな治療法(生理学医学)、16年がオートファジーの仕組み解明(生理学医学)と3年連続で合計7人の日本人(外国籍含む)が受賞した。

今年は10月2日から4日まで生理学医学、物理学、化学の順で自然科学3賞の発表があった。事前に下馬評に挙がっていた日本人研究者もおり、4年連続受賞が期待されたが、残念ながら受賞には至らなかった。各賞ともまだまだ候補にあがっている研究者がいるので、来年以降に期待したい。

第2次大戦後の日本はモノづくりで成長した。自動車にしても電気製品にしても、決まったモノをいかに正確に、低コストでつくるかというモノづくり技術によって製品とともに富を生み出し、豊かな国になった。ところが、モノを低コストで作る作業は労賃の安い国・地域に向かっている。これは自然の流れだ。生活水準の高い先進国は科学研究の成果をいかして、新しいモノやサービス創出していかなければならない。それができなければ、衰退の道をたどることになるだろう。

ところが最近、気になるのは過去のノーベル賞受賞者などから、日本の研究環境の悪化に関する発言が出ていることである。日刊工業新聞に連載中の「どうなる日本の科学~ノーベル賞受賞者に聞く」では、「他国が科学技術予算を増やす中、日本だけが大学や研究機関の体力をそぎ落としている」「海外は科学技術に積極的に投資し、日本は相対的に地位を落としています」「科学力再生のためには新しい研究や未知への挑戦を評価し、育てる風土を作らねばならない」といった具合だ。

確かにたくさんの研究費と研究時間がノーベル賞級の成果につながる面もあると思う。でも、たくさんお金をかければノーベル賞の受賞者が増えるというわけでもないだろう。大切なのは誰もやったことのない領域の研究に挑戦するマインドを持った若手研究者をたくさん育てることだ。

ノーベル賞級の研究成果を生み出す研究者は広いすそ野があってこそ出てくる。まずは子供たちが自然科学に興味を持ち、未知の領域を知りたくなるような環境を整えることが重要ではないだろうか。

(山崎和雄)

(2017/10/5 05:00)

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