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【電子版】マーケティングの出番ですか? (28)「顧客戦略の温故知新」

(2018/4/14 05:00)

筆者は昨年、住宅ローンの借り換え、携帯電話のキャリア乗り換えを行いました。ローン借り換えは、やや変則的ですが、同一銀行での低利変更、キャリア乗り換えは新規加入者向けの特典をきっかけに他社に移行しました。

読者の皆さまの中にも、同様の経験を通して各社における既存顧客対応の巧拙を感じることがあるものと存じます。今回は、Ansoff氏が半世紀前にモデル化した「成長マトリックス」を参考に、企業の顧客戦略について考察したいと思います。

「一見さんお断り」のお茶屋に見る既存顧客維持“重視”!の戦略

時折、閉鎖的な商習慣として揶揄(やゆ)される京都のお茶屋の「一見さんお断り」という既存顧客を優先する手法ですが、サービスを提供するお店側に立てば、既存顧客から安定的な売上を見込むことで計画的な仕入れ、生産、在庫管理、流通を実現し、それを基盤に既存顧客の期待に応える製品の品質(Q)、価格(C)、納期(D)の維持、さらなる向上に取り組むことが可能となります。

新規顧客にとっては敷居の高いサービスですが、顧客セグメントを確立し、料理、芸妓等、各種サービスの効率的なサプライチェーンを構築しているお茶屋は、まさに正当な顧客戦略を体現しています。

ご存知の通り、お茶屋同様に、高価値を求める顧客層を対象とした製品やサービスは、さまざまな分野でニッチ市場を形成しており、長年築いたブランド力を基に高付加価値ビジネスを展開しています。

「ローン借り換え」「キャリア乗り換え」に見る既存顧客“軽視”?の戦略

「ローン借り換え」「キャリア乗り換え」両サービスともに、他社で過去に契約されたサービスを自社の新サービスに切り替えることを武器に顧客を奪い合う形で新規開拓が行われています。自明ですが、各社が既存顧客に対して旧(割高)サービスから新(割安)サービスへの変更を提案すればこの市場は存在せず、自社の利益を減少させる提案がし難いというジレンマが既存顧客“軽視”の要因となっており、顧客サービスを空疎なものにしています。

ちなみに筆者の場合、ローン借り換えにあっては、他行からの低利ローンの提案を受けた後に、現契約銀行の低利ローンの変更、それに加えて利用意向のない他の金融サービスも契約することとなり釈然としませんでした。他方、携帯電話の他社キャリアの乗り換えにあっては、解約手続きの電話連絡をした際、現キャリアのオペレータから長々と解約を慰留され、憮然としてしまいました。ユーザー・エクスペリエンス(UX〈顧客体験〉)の向上がマーケティグのテーマとされる中、真逆の対応を受けた次第です。

「成長マトリックス」でとらえる顧客戦略

さまざまな製品を提供する企業と様々な顧客から市場は形成されていますが、これをAnsoff氏は経営戦略の観点から「製品が既存か新規か」「市場が既存か新規か」の2軸で分けた四つの象限(マトリックス)で各市場をモデル化しました。

当モデルの4象限は、「Market Penetration(市場浸透)」「Market Development(新市場開拓)」「Product Development(新製品開発)」「Diversification(狭義の多角化)」と位置付けられています。

このモデルをベースに顧客戦略の観点から、「市場浸透」→「安定市場」、「新市場開拓」→「拡大市場」、「新製品開発」→「成長市場」、「狭義の多角化」→「潜在市場」に読み替え、企業における各市場の規模、特徴を考察し、図1、2を作成してみました。

一般的に、多くの企業は安定市場を主力事業として競争力(源泉)、受注確率から、安定市場>拡大市場>成長市場>潜在市場の順で売り上げが推移し、その重要度に応じて資源配分が行われていると思われますが、顧客ニーズや価値観が変化する社会情勢や大きな技術革新がある状況下において、安定市場を喪失する事態に陥ることがあります。

市場環境が一変し、安定市場からの収益が揺らぐ中、急ぎ他の市場への参入を迫られますが、安定市場で長年蓄積した既存顧客、既存製品という資産を抱える中での事業モデルの再構築(スクラップ・アンド・ビルド)は容易ではありません。

顧客戦略のトリレンマの克服

先に例示したサービスに見られる既存顧客“軽視”は、自社の利益を減少させる提案がし難いというジレンマが要因でしたが、既存顧客からの収益を維持しつつ、とりわけ、新規顧客×新製品の潜在市場を開発することは、限られた“人、モノ、金”の資源配分の観点からはトリレンマの課題に映ります。この課題の克服には、将来の市場展望と新事業構想(コンセプト)に立脚した積極的なリスクテイクと敢然とした組織文化の変革が必要と思われます。

既存顧客/新規顧客、既存製品/新製品、どの市場をこれからのビジネスの主軸とするのか、大きな環境変化が予想されるこれからの数年間、各社の顧客戦略の真価が問われます。

(『新製品情報』2017年10月号掲載)

(おわり)

著者紹介

武道 誠芳

株式会社テンプロテクシー代表取締役

(マネジメントコンサルタント)

所属:(株)テンプロクシー にて、コンサルティングサービス、マーケティングサービス、ロボットビジネスを展開

生年:1960年

出身:富山県

学歴:横浜市立大学商学部卒業

経歴:外資系コンピュータメーカー、システムコンサルティング会社、サイパン航空事業への参画後、1996年起業

(2018/4/14 05:00)

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