【進化するコネクテッド インダストリーズ vol.6】日本の強み、エッジコンピューティングとは?

(2018/5/16 09:30)

  • エッジコンピューティング

クラウドは〝地上戦"へ。各社が基盤作りを急ぐ

 製造業ではデータの使い方が新たな局面を迎えている。IoT(モノのインターネット)の進展で、装置や機械の稼働データを機器の近くで処理する「エッジ(末端)コンピューティング」が本格化する。遠く離れた”クラウド(雲)”にデータを集める従来と比べ、応答速度を高めることができ、人工知能(AI)を活用した装置の故障予知など応用範囲が広がる。各社はこうした技術を、顧客の工場に合わせて活用できるIoT基盤(プラットフォーム)を提供することなどで生産性の向上を後押しする。

 「クラウドにデータを上げて答えを聞いていたのでは間に合わない」(機械メーカー幹部)。IoTではこれまで、各機器のデータをクラウドで分析し、その結果を現場に戻すシステムが多かった。ただ工場では産業用ロボットや工作機械など複数の機器から膨大なデータが発生。すべてのデータをクラウドで処理するにはコストがかかるほか、時間的な”遅れ”も発生する。

 例えば、高速でアーム(腕)を動かすロボットでは、何か異常が発生してロボット同士の衝突を予知できても、クラウドを経由していては間に合わないという。

 また、工場にとって財産とも言えるデータをインターネットを経由してクラウドに送ることはリスクを伴うが、エッジでのデータ処理はセキュリティーにも配慮できる。

ファナックは「フィールドシステム」

 ファナックは2017年、エッジ領域でデータを活用するIoT基盤「フィールドシステム」の運用を始めた。同社の製品だけでなく、メーカーや世代を超えてあらゆる機器のデータを一元管理できる。集めたデータを活用するアプリケーション(応用ソフト)も、誰もが開発して運用できるなど、オープンな利用環境を提供する。

 工場では顧客ごとに異なるメーカーの機器をそろえ、独自のやり方で生産している。一方、これまで機器のプロトコル(通信規約)の違いが、データの一元管理を難しくしていたが、フィールドシステムはこれを克服。アプリを組み合わせることで自社のモノづくりに合わせたデータの活用が可能で、工場ごとに独自の手法で生産を高められる。

 フィールドシステムは米シスコシステムズやプリファード・ネットワークス(東京都千代田区)などと共同で開発。商品の提供ではアプリ開発会社やシステムインテグレーターなど複数のパートナーとも連携する。多くの企業が関わるが、サービスではファナックが顧客の相談を一括して受け、内容に応じて各パートナーに対応を依頼。問題が解決するまで一貫してフォローする体制を構築した。

 稲葉善治ファナック会長は「キラーコンテンツとなるアプリを何本用意できるかも重要になる」とし、3年をめどにアプリを100本以上に拡充して同基盤の普及を目指す。

  • ファナックのフィールドシステム

  • エッジクロス・コンソーシアム設立発表会(17年11月)

三菱電機など「エッジクロス」始動

 三菱電機は2003年から製造現場のデータを活用した課題解決手法「eーファクトリー」を提供している。生産性向上や品質改善などの課題に対し、エッジでのデータ処理を基本に、解決するための仕組みを提案。これまでに世界で7700件以上のシステムを導入した。

 また、三菱電機はエッジ領域でデータを活用するIoT基盤「エッジクロス」のコンソーシアム(企業連合)にも幹事会社として参画する。同社のほかオムロン、NEC、日立製作所などが参加。メーカーを問わずあらゆる機器からデータを集め、誰もがアプリを開発できるオープンな環境が特徴だ。今春をめどに同基盤やアプリの提供を予定する。

 三菱電機の宮田芳和常務執行役は2017年に構想を発表した独自のオープンプラットフォームの考え方を「エッジクロス発展の要素として提案することで、コンソーシアムをけん引していく」とコメント。同社はすでにエッジクロスにも対応するデータ分析・診断ソフトウエアや産業用パソコンなどの開発に着手。eーファクトリーでもエッジクロスに対応するなど顧客の要望に幅広く応える。

 安川電機もエッジでのデータ活用を基本にした課題解決手法「アイキューブメカトロニクス」の提案を3月から本格化する。同社は既にロボット、サーボモーター、インバーターといった生産ラインの核となる機器を製造業に数多く納入。これらの機器から現場の状況を把握する上で基礎となるデータを集めて分析し、装置の故障予知など生産性の向上につながる手法の提案に力を入れる。

 この動きに伴い同社は、これまで製品ごとに分かれていた営業体制を一本化し、担当者があらゆる製品を提案できるようにした。また2020年6月をめどに約100億円を投じて北九州市の本社隣接地に研究開発拠点を新設。グループの開発や生産技術の機能を集約し、基礎研究から量産試作まで一貫した研究開発体制を構築する。AI技術を開発する子会社も設立。外部との連携や優秀な人材の獲得をしやすくして開発を加速する。

協調領域でデータ共用

 各社が対応を強化するなか、行政も動きを加速。世耕弘成経済産業相は第4次産業革命に向けた戦略「コネクテッド・インダストリーズ(CI)」で、各社が提案するデータプラットフォーム間の協調領域のデータ共用を進めるため、「データ構成の標準化や流通の仕組みについて検討している」とし、競争力向上を後押しする。

(2018/5/16 09:30)

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