[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/ハノーバーメッセで出会ったユニークなスタートアップ

(2018/7/19 05:00)

 4月下旬にドイツ・ハノーバーで開催された世界最大の産業見本市「ハノーバーメッセ」。会場にはドイツが官民で進める「インダストリー4・0」関連を筆頭に、最先端のデジタルファクトリーを構築する産業IoT(モノのインターネット)の機器や技術、ソフトウエア、システムなどが山ほど展示された。とはいえ、この分野で著名な大企業の取り組みは、報道し尽くされている観もある。遅ればせながら、ここでは同展で出会った海外のユニークなスタートアップを中心に紹介したい。

業務用グーグルグラスにも対応

 もしかして、2017年に復活した業務用グーグルグラス(グラスEE)に拡張現実(AR)ソフトを提供している会社? そう思って立ち寄ったのが、米アップスキル(バージニア州)のブース。

 スマートグラスなどAR機器向けの業務用ソフト開発企業として、2010年に設立された。ボーイングやGEベンチャーズ、シスコシステムズなどが出資し、エンドユーザーにはボーイング、GEアビエーション、ロールス・ロイスが名を連ねる。

  • ビュージックスのスマートグラスをかけて製品の説明をする米アップスキルのキム氏

 同社のソリューションは、組み立てや保守などの作業手順を絵や文字、アニメなどを使ってメガネ内部に分かりやすく映し出す仕組み。紙のマニュアルをいちいち確認せずに、組み立て作業や工程管理、品質管理、保守、トレーニングなどを効率的に行えるという。試しにスマートグラスを装着してみると、製品組み立てに必要な部品の棚をシステムが認識し、画面表示で教えてくれた。

 最高戦略責任者のジェイ・キム氏によれば、日本では米ビュージックス製のスマートグラスに対応した同社のソリューションがすでに販売中。さらに業務用のスマートヘッドセットを製造販売する日本の有力企業と提携し、アップスキルのサービスを近く提供する予定という。

MITメディアラボ発、IoTスタートアップ

 「こんなシステムは他にないよ。ユーザーは『フォーチュン500』に入る優良企業や中小企業だし、導入分野も製造、防衛、医薬などさまざま。欧米9カ国で展開しているが、いずれ日本を含め東アジアにも進出したい」

 こう話すのは、工場向けにIoTソリューションを提供する米チューリップ(マサチューセッツ州)の共同創業者、ロニー・クバット氏。

  • MITメディアラボ発のチューリップのブース。デモシステムの画面を見つめるクバット氏(左から2人目)

 同社は、工場内の装置・機器やツール、センサーなどをIoTのゲートウエー装置経由で接続し、相互に通信できるIoTプラットフォームなどを提供する。

 また、パソコン、タブレット、スマートフォンで動くアプリはプログラミングなしに容易にカスタマイズ可能。現場での収集データや作業員の入力操作を基に、画面表示による作業指示やトレーニング、品質管理、設備機械のモニタリングなどができる。製造データをリアルタイムに分析し、継続的な改善につなげる分析サービスまで提供し、ウェブによるSaaS(サービスとしてのソフトウエア)込みのスターターキットは3500ドルという。

 チューリップは14年、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ発のスタートアップとして創業した。メディアラボ発の製造関連スタートアップは珍しいのでは?と問うと、「そんなことはない。(金属積層造形の)デスクトップメタルがいい例だ」とクバット氏。ダボス会議を主催する「世界経済フォーラム」が6月に発表した、社会・産業を変革する2018年の「テクノロジー・パイオニア」61社のうちの1社に選ばれるなど注目の存在で、社名のチューリップのようにビジネスが花開きそうだ。(デスクトップメタルについては19日付の本紙「産業春秋」を参照)

金属3Dプリンターで作る、車の「骨」組み

  • トポロジー最適化の手法で形状をデザインし、金属3Dプリンターで作り上げたデモ用フレームを車に搭載

 年代を感じさせるフォルクスワーゲンの真っ赤な小型商用車「VW Caddy(キャディ)」。ボンネットを外したそのフロント部分にはエンジンが見当たらない。代わりに空間を埋めているのは金属製のシャシーフレーム。ちょっと不気味な感じもするが、まるで生き物の骨のような有機的なフォルムが来場者の目を引く。

 実はこれ、「3i-PRINT」という研究プロジェクトの下、アルミニウム合金を材料に金属3Dプリンターで製造したもの。構造解析ソフト「ハイパーワークス」の開発会社の米アルテアエンジニアリング、欧エアバス子会社で金属積層造形部品の設計・製造を手がける独APワークス、金属3Dプリンターの独EOS(イオス)、各種材料を扱う独ヘレウスなど6社が参画し、企画段階から9カ月で完成にこぎつけた。

 フレーム部分が生き物の骨のように曲がった形状になっているのは、「トポロジー最適化」の設計手法を使用したため。植物や動物の構造を設計ソフトのアルゴリズムに組み込んであり、荷重や力に対する立体形状を最適化することで軽量化や部品点数の削減が図れる。工作機械の切削加工だと製造は難しいが、3Dプリンターによる積層造形ならお手のものだ。

  • ベルギー・フランダース州のバー・ジーニアスが出展したカクテル調合ロボット。創業者はロボット大手、独クカのソフトウエアエンジニア。「クカ以外のロボット向けにソフトを販売する」という

 車のフレームは全部で30パーツあり、1パーツ当たり製造時間は丸1日。それらを溶接で接合して作り上げた。とはいえ、こうしたフレーム部材の実車への応用は想定していないという。「あくまで3Dプリンターでこういうことができる、というデモ用のデザイン」と担当者。

 この辺りこそ、国内の産業IoTのトレンドで特に見過ごされがちな発想のように思える。材料選択を含め、こうした金属3Dプリンター関連の設計・製造ノウハウの蓄積の試みは、それまでありえなかったものを作り出す、デジタルファクトリーの重要な基盤にもなるだろう。(藤元正)

(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)

(2018/7/19 05:00)

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