標準必須特許 ライセンス交渉のポイント(6)ロイヤルティー算定の基礎とは

(2023/2/2 05:00)

技術の本質的部分捉え個別検討

次回にかけて標準必須特許(SEP)のライセンス条件の中でも重要なロイヤルティー(ライセンス料)に関する論点を紹介する。ロイヤルティーは通常、特許が製品に対して貢献している価値を反映するものであり、「ロイヤルティーベース(算定の基礎)× ロイヤルティーレート(料率)」によって算出される。ライセンス交渉においては、算定の基礎をどのように特定するのか、料率をどのように算定するのかといった点が、当事者間での論点となり得ることから、今回はこのうち算定の基礎に関する議論を解説する。

算定の基礎の特定については、最小販売可能特許実施単位(Smallest Salable Patent Practicing Unit。以下「SSPPU」) と市場全体価値(Entire Market Value。以下「EMV」) という二つの考え方がある。SSPPUは特許権に係る技術が最小販売可能単位の部品のみで使われているのであれば、当該特許権が貢献していると考えられる当該部品の価格が算定の基礎となるという考え方である。一方、EMVは特許権に係る技術が最終製品全体の機能に貢献し、製品に対する需要を牽引しているのであれば、最終製品全体の価格が算定の基礎となるという考え方だ。

SSPPUとEMVは、米国の特許権侵害訴訟で合理的な実施料に相当する損害賠償額を算定する際に裁判所により示された考え方であるが、SEPのライセンス交渉において合理的なロイヤルティーを決める際にも参考となるものと考えられる。

特許権者からは多くの場合、SEPの技術が最終製品全体の機能に貢献していることや、最終製品の需要を牽引しているとの立場から、EMVを基礎とすべきだとの主張がなされる。他方、最終製品メーカーからは、多くの場合、SEPの技術の貢献は最終製品全体の中の一部または部品に閉じているとの立場から、SSPPUを基礎とすべきだとの主張がなされる。通信技術が機能の中核である携帯電話が主な議論の対象であった時代においては、EMVを支持する意見が多く見られた。しかし、通信技術が製品の機能の一部を占めるに過ぎないコネクテッドカーなどの登場に伴って、SSPPUとEMVのいずれを算定の基礎とすべきかについての論争が起きている。

SSPPUとEMVとのいずれの考え方も、SEPの技術の本質的部分が貢献している部分を算定の基礎としようとする点では共通している。加えて、SSPPUとEMVのいずれかが唯一の算定の基礎というわけではなく、大切なことは、個々のケースごとに適切な算定の基礎が検討されることである。

例えば、SEPの技術の本質的部分が、チップよりも大きいデバイスの機能を動作させるものであり、チップ自体を超えてデバイスの機能に貢献している場合には、チップの価格をSSPPUとして算定の基礎に用いることは、SEPの技術がもたらす真の価値を反映することにならないとの意見がある。他方、SEPの技術の本質的部分の貢献が、チップ自体に閉じており、当該チップが独立して客観的な市場価値を有している場合には、チップの価格をSSPPUとして算定の基礎に用いることが適切であるとの意見がある。

また、例えばスマートフォンのように無線通信機能以外にもカメラ機能等の多数の機能を備えた製品の場合、EMVを議論の出発点としつつ、無線通信の標準規格に係る全てのSEPが最終製品に貢献している割合(最終製品全体の価格に対して無線通信機能が貢献している割合)を乗じることにより、算定の基礎を特定するという考え方も存在する。

したがって、算定の基礎については、SEPの技術の本質的部分が部品または最終製品に対してどのような貢献をしているのかを踏まえて、個々のケースごとに検討することが重要となる。(隔週掲載)

◇特許庁 総務部企画調査課 課長補佐 川原光司氏

(2023/2/2 05:00)

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