日立造船の衛星機器向け全固体電池 小型で安全・長寿命

(2023/12/15 12:00)

2022年、宇宙で全固体電池の充放電に世界で初めて成功した日立造船。宇宙は高真空や、日照時には100度C以上の高温状態になるなど過酷な環境だけに、常温、常圧の通常時と比較すると実用化へのハードルは高いとされる。全固体電池は今や世界が注目する次世代電池で開発競争が加速しているが、同社は独自の製造方法を強みに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と実用化に向けた共同研究を進めている。

  • ISSと「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォーム

リチウムイオン電池(LiB)は可燃性の電解液を含み揮発性があるため、宇宙という過酷な環境下では膨張や発火、液漏れなどの危険性がある。現在は衛星機器の内部で厳格な温度管理や断熱材などで保護された上で使用されるが、「用途や温度帯が限られ、かつ設備も大型になることが課題となっている」(西浦崇介電池開発グループ長)。

そこで注目されているのが全固体電池。固体の電解質のため膨張や発火の危険性がない。そのためあらゆる温度帯や真空、高圧空間で利用でき、リチウムイオン電池では難しかった省スペース化が求められる衛星機器や探査機など幅広い用途への導入に期待がかかる。

ただ、一般的な全固体電池の湿式の製造方法では、溶剤を取り除く際に空げきが発生し、電極の粒子間の界面形成を維持しにくい課題が残る。電池動作時に外部から加圧を加えるためのジグなどが必要で、「小型化には向いていない。また揮発性をもつ溶剤を使用しており、宇宙での安定的な運用に課題が残る」(同)。

  • 1000ミリアンペアの全固体電池

同社が開発したのは、硫化物系の無機固体電解質を用いた固体電池。マイナス40度C―120度Cの温度帯に対応でき、かつ容量140ミリアンペア時の場合、120度Cの真空環境で充放電を100回繰り返しても93・7%の高容量を維持することができる。

固有の粉体加工と加圧成形、成膜技術を活用した完全乾式の独自製法で、外力がなくても電極粒子の界面を維持できることが最大の特徴だ。また完全乾式のため、揮発成分をもつ溶剤の使用を極小化できることで、高温、高圧でも電池の膨張が起きにくく、安定運用を実現できるという。

宇宙における実証では、容量約2・1アンペア時をカメラの電源として搭載し、実際に宇宙空間の撮影にも成功した。「宇宙では複合的要素がからみ、それらの環境に耐えうる性能の開発に一番苦心した」と西浦氏は開発当時を振り返る。

今後、複数の衛星を宇宙空間に配置する「衛星コンステレーション」の構築が進むとみられており、大量に打ち上げられる衛星機器への搭載を目指す。衛星は極力小型、軽量が求められるほか、限られた日照時間での充放電の運用方法や、長寿命化など「さらなる性能の向上に取り組む必要がある」(同)。

全固体電池は同社が02年に造船事業を分離し、新しい事業の芽をつくろうと開発に着手した分野の一つ。プロセスの固有技術を強みに、他社と差別化した全固体電池の実用化に期待がかかる。

(2023/12/15 12:00)

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