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深層断面/中古携帯端末、国内流通追い風も…

(2016/9/6 05:00)

公正取引委員会が携帯電話大手によるスマートフォン端末の販売について独占禁止法に違反する事例を指針にまとめて1カ月余り。携帯各社は指摘があった新品端末の総額を固定する割賦契約について見直す動きがあるが、中古端末の下取りや国内流通の問題は着地点が見えていない。格安スマホ事業者が台頭する中、キャッシュバック廃止後、初めての米アップル製スマホ「iPhone(アイフォーン)」新機種の商戦を週末にも迎えるだけに指針を踏まえた各社の出方が注目される。(清水耕一郎)

  • 中古端末の国内流通は追い風も相場下落の懸念もある

  • 今年はキャッシュバックを廃止して初のアイフォーン商戦。公取委の指針が商戦にどのような影響を与えるかが注目される(15年のアイフォーン商戦)

アップルには打撃?

【独禁法違反も】

公取委は8月、報告書「携帯電話市場における競争政策上の課題」を公表した。中古端末流通やスマホ販売の商慣習が独禁法に違反する可能性を指摘し、スマホの販売の是正を求める内容だ。格安スマホなどを販売する仮想移動体サービス事業者(MVNO)の参入を促す狙いがある。

総務省はMVNOの参入促進を巡り、携帯各社の実質0円販売や通信料金の高止まりの問題と併せて施策を講じてきた。結果、MVNOの参入事例が相次ぎ、通信市場での存在感がある程度高まった。

一方、携帯各社はソフトバンクがサブブランド「ワイモバイル」など格安スマホの提供を始めた。携帯各社とMVNOとの競争が活発化し、新たなフェーズに入っている。

「どう考えても影響が出るのは、アップルだろう」。情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員は公取委の報告書をこう分析する。MVNOがさらに伸びていくには、人気の高いアイフォーンの取り扱いが重要なカギになる。現状、MVNOで扱っているところはほぼない。アップルと契約していないためだが、これは契約自由の原則から問題はない。

ただアイフォーンを呼び水に携帯各社がマーケティングを積極展開する中で「端末を縛っている」(岸田上席主任研究員)。それに伴い端末の競争が働かず、MVNOが人気の端末を扱えないとなれば新規参入の障壁になりかねない。特定の企業に言及していないが、その可能性を示唆しているのが公取委の指針だ。

  • 「iPhone」新機種発売を控え、携帯各社の販売手法が注目される(東京・銀座のアップルストア)

  • ソフトバンクのサブブランド「ワイモバイル」の販売店

【海外向け7割】

一つは、携帯大手が店舗で下取りした中古端末が国内に流通していない点。これはアップルが携帯大手と契約する際に、中古端末を国内に流さないように条件を課しているのではないかとの見方がある。新品の出荷台数に対する中古端末の販売実績は8%程度にすぎない。国内に中古が流通しなければ「ユーザーが新品の購入に流れるのは想像に難くない」(公取委事務総局の木尾修文経済調査室長)。

関係者によると、携帯各社が下取りする中古端末はアンドロイド端末を含め年数十万台。約7割が海外向けで香港の中古市場を中心に輸出され、うちアイフォーンは8割程度とみられる。残りは国内で補償サービスの代替機やリサイクル向けとされる。

公取委は中古端末の不当高価購入も課題に挙げる。店舗で不当に高い価格で端末を下取りし、競合の中古専売店の経営悪化をまねいた場合、規制対象になる可能性がある。例えば2万円で端末を下取りして1万円で販売するなどコスト割れの取引を継続し、中古専売店が倒産、独占企業となった店舗が今度は不当に安い価格での下取りを避けるのが目的にある。

【販売規制進む】

ただ今のところそうした実態はない。携帯各社の実質0円販売規制が進む中で、公取委は「(携帯各社の)マーケティングコストが浮いた分を、下取りに回す可能性がないとは言い切れない」(木尾室長)とし、端末の買い替え時期となる新型アイフォーン発売前に不当高価購入にクギを刺している。

ユーザーが新品端末を購入する際の割賦契約も問題になりうると指摘。2年契約で新品端末を購入すると、分割払いは1種類しかなく、店頭で新品の販売価格が固定されてしまう。分割払いの契約は店舗の与信の問題からユーザーと携帯各社で結ぶことになる。

例えば9万円のアイフォーンは9万円の分割払いしかなく、ユーザーが頭金2万円を出しても7万円では分割できない。店舗がキャンペーンで9万円を7万円に値下げしようにも携帯各社が決めた割賦契約は使えない。ユーザーに一括払いを薦めるほかなく、結局値下げができない。

木尾室長は「これでは新品の価格競争が発生しない」と指摘する。その上で「この『再販売価格の拘束』は違法性が高い類型。待ったなしの改善が必要」と強調。ユーザーの懐具合に応じた割賦販売への切り替えを求める。

中古端末の流通と新品端末の割賦販売の施策を講じるのは「根底に新品の値崩れを防ぐ仕組みになっている可能性」(木尾室長)があるため。価格競争を避け、新品の高止まりが生じる。そのため公取委は中古品と新品(中古端末の流通)、新品同士(割賦契約)の競争を働かせ、端末価格の低下につなげたい考え。

一方、公取委ににらまれてしまった携帯各社。すでに現行の割賦契約をやめるため店舗のシステム改修を進めている。一方で中古端末の問題がどうなるか。日本で“警告”が出た以上、携帯各社もアップルも明確に条件を付けて契約するわけにはいかない。各社はどう対応するのか、その出方が注目される。

■MVNOの参入増加−買取業者、国内需要拡大カギ

  • 新品・中古端末や、格安SIMを組み合わせた端末をワンストップで提供する携帯専門店(東京・渋谷)

中古端末市場は拡大傾向にある。総務省の端末のSIMロック解除やMVNOの参入増加がその理由だ。中古端末の国内流通の制限がなくなれば中古買取業者にとって追い風になるが「中古市場が広がると楽観はしていない。状況を見ながら対応する」(ゲオ)と冷静だ。

背景には急激な相場変動への懸念がある。もともと海外に向かっていた端末が国内に流れた場合、相場が崩れる可能性がある。供給量が拡大しても需要がなければ販売価格が落ち、利益は減る。今回の指針は必ずしも需要に即した施策ではないため、中古買取業者としては「国内需要を拡大しなければならない」(アワーズ)と指摘。同時にMVNOの格安SIMとセットで販売し、中古専売店が消費者の選択肢の一つとして浸透させられるかもポイントになる。

これはMVNOも同じで、格安SIMにSIMフリー端末、手持ちの端末、第三極として中古端末の組み合わせになる。ただユーザーの多くは携帯各社の店舗で購入しているのが現状。SIMの使い方とともに、認知度アップが引き続き欠かせない。

(2016/9/6 05:00)

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