[ 機械 ]

【別刷特集】切削工具-情報化時代を迎えた 切削工具・超精密切削技術の最新動向

(2016/11/22 10:00)

 JIMTOF2016(日本国際工作機械見本市)に先立って、米国・シカゴで開催されたIMTS2016(シカゴショー)では工作機械、工具メーカーの展示ブースでも情報化時代を迎えた新たな動向が感じられた。ネットワーク機能を加えた数値制御(NC)装置が登場し、生産現場をトータルで管理するシステムの誕生である。一方で、スマートフォンから始まった製品のスマート化は、自動車や家電などにも普及しつつあり、超精密・微細切削に対する注目が集まっている。新たなテーマに向かって変化している状況下で、JIMTOF2016は、多くの場で今後に向けた有益な提案が期待されよう。

◇松岡技術研究所 所長 工学博士・技術士 松岡 甫篁

クラウド構築が急務 古くて新しい技術も注目

  • 図1 ソリューションビジネスに転換した工具メーカーの展示風景。大型ディスプレー、タッチパネルなどで見学者の質疑に応答していた(スウェーデン・サンドビック)

 IMTS2016では、NC装置にIoT(モノのインターネット)に対応したネットワークが紹介されるなど、新たな展示内容に注目が集まった。図1は切削工具メーカーの展示風景である。ブースではタッチパネル方式の大型画面、ホワイトボードなどを駆使して、見学者に個別対応しながら、ソリューションビジネスを展開していた。

  • 図2 クラウドから工具データを入手し、NCプログラミングまでのネットワーク事例(ヤマザキマザック)

 図2はネットワーク事例である。工具メーカーのクラウドにアクセスし、ツールデータコンバーターを経由して所定の工具、切削条件などの必要なデータをNC装置に取り込む。これらのデータを単独のコンピューター利用製造(CAM)およびコンピューター数値制御(CNC)内蔵のCAMで、NCプログラムを生成し、所定のNC工作機械に転送する流れである。

 一方で、既に部品生産の自動化も始まっており、ロボットの自動運転で、工具と切削技術も安定した工具寿命の特性が求められている。長時間稼働に必要な膨大なNCプログラムのデータ生成には、多くのCAMオペレーターも必要となる。同時に、企業間の競争が激化する中で、高度なNCプログラム生成は不可欠だ。

このため、最新の工具と切削技術情報のタイムリーな入手が求められる。すなわち、工具メーカーにとって、最適な工具選択と切削条件を、適時提供できるクラウドの構築が急務である。

 また、生産工程の簡素化や部品集約で、効果が期待できる5軸制御マシニングセンター(MC)および複合加工機の導入が始まっている。5軸制御MCはエンドミルなどの突き出し量を最小限にした切削が可能で、従来の3軸制御MCに比べ、切削効率と切削精度で有利になる。

 しかしながら、現状では最適な市販工具が少なく、早期の開発とユーザーへの提供が求められている。例えば、外周部の切れ刃中心の切削で、刃数、切れ刃エッジ部形状、切削方向などを考慮した、高送り切削エンドミルが考えられる。焼きばめツーリングと組み合わせて、最短の高剛性エンドミルなど、新たなコンセプトの切削工具の登場が切望されている。従来、限定的に適用されていた、冷間切削、ターンミルなど古くて新しい切削技術も注目されている。

  • 図3 窒素ガス供給によるチタン合金ワークの冷間切削の実演風景(ヤマザキマザック)

 図3は窒素ガス供給によるチタン合金、アルミ合金のフライス切削である。刃先付近で発生する高熱を急速に冷却することで、切削面精度と工具寿命面での効果が期待できる。既に、コンパクトな窒素ガスの供給装置が開発され、今後の適用拡大が期待される。ターンミルは被削材を旋回しながら、フライス工具で切削する方式で、フライス工具の小径化と切削範囲を縮小できる効果が期待される。

新たな方向性を模索-理論と実践の理解深める

 工業製品のスマート化でコンピューター化が拡大し、これらに用いる精密・微細部品のニーズは高まっている。さらに、高機能とコンパクト化の追求が行われ、さらなる精密・微細化の傾向が強まっている。この結果、エンドミルの微小径化と微小切り込み量の切削技術の開発が行われている。特殊だが直径10マイクロメートルのエンドミル切削も行われている。

 このような微細切削は、MCの主軸の最高回転数と熱変位、送り駆動系の俊敏性が、切削精度と工具寿命に直接的な影響を及ぼすことは知られている。既に、リニアモーター送り駆動系の採用など、超精密・微細切削向けに新たなコンセプトで開発した、NCシステムの適用などが行われている。

 精密・微細切削用工具では、切れ刃特性と工具寿命を考慮した、摩耗しない工具が追求されている。そのため、立方晶窒化ホウ素(cBN)焼結体または多結晶ダイヤモンド(PCD)焼結体が、主に工具材種として適用される。

 しかしながら、cBN工具は一部の高硬度鋼にのみ適用され、大部分の被削材はPCD工具が用いられる。cBNとPCDエンドミルとの切削面比較では、切れ刃エッジ特性の高いPCDエンドミルが優れている。微細形状の切削は、エンドミルなど工具の微小径化における剛性を維持することが求められ、ネガティブ切れ刃の工具デザインになる。超精密・微細切削は、形状と精度および被削材などで多様化し、同時に精度とダウンサイジングが追求されている。このようなニーズに応えるべく、多種多様な工具と切削技術の開発が行われ、新たな切削の領域が拡大しつつある。

  • 図4 新開発のPCDボールエンドミルによるレンズ型成形部のナノ切削事例(切削データ=ソディック、工具=日進工具)

 すなわち、工具のダウンサイジングによる微小径エンドミル、精密・微細切削、曲面(ナノレベル)切削、平面(ナノレベル)切削、超硬合金など高脆材切削などに向けて開発されたエンドミルと切削技術が登場している。例えば、図4は新たなコンセプトで開発したエンドミルとレンズ成形部の超精密切削事例で、切削面粗さ精度(Ra)でシングルナノメートルの切削面を実現している。

 最近、工具の微小径、高性能の追求とPCDの適用拡大で、工具成形は新たな模索が始まっている。現状ではレーザー、特殊放電の多軸制御による工具成形が行われているが、高能率化の面で難がある。切削の超精密を追求する上で、切れ刃エッジの高品位化の取り組みは不可避である。

 超精密・微細切削による部品生産は、微小径工具の導入のみでは実現できず、専用MC、CAMなどに加え、理論と実践の理解を深め論理的な進め方が求められよう。

 超精密・微細切削は、今のところ日本のお家芸として優位な立場にあるが、中国など近隣諸国の追い上げもあり、さらなる研究開発は急務である。今や、工業製品の生産は、切削を中心としたネットワーク化による迅速化に加え、3Dプリンターによる斬新な設計構造と部品集約の提言など多様化する中で、新たな方向性の模索が始まっている。

 今回のJIMTOF2016では、部品生産における新たな領域の提案が楽しみである。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/11/22 10:00)

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