モノづくり日本会議、会員限定オンラインセミナー「5Gの海外動向および産業利用」

(2020/5/28 05:00)

モノづくり日本会議は4月28日、「5Gの海外動向および産業利用」をテーマにした協賛会員限定のオンラインセミナー(ウェビナー)を開催した。講師はNTT系のシンクタンクである情報通信総合研究所ICTリサーチ・コンサルティング部上席主任研究員の岸田重行氏。話題の第5世代通信(5G)に関する海外の状況や、産業応用の可能性、さらには社会がどう変わっていくのかなどについて、詳しく解説してもらった。

韓米中先行も日本品質に注目

情報通信総合研究所 ICTリサーチ・コンサルティング部上席主任研究員 岸田重行氏

ウェビナーで講演する岸田氏

国内ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの通信事業者3社が5Gの商用サービスを3月にスタートし、楽天が6月に開始する(その後、楽天モバイルが「約3カ月をめどに延期する見通し」と5月15日発表)。ただ一気にではなく段階的に導入が進み、フルスペックの5Gは2022―23年ごろから整備される見込みだ。

日本は海外から1年遅れのような報道がなされている。世界全体を見ると、3月時点で35カ国・地域で63事業者が5Gサービスを導入済み。うち日本より先に準備が進んだのが米国、韓国、中国。また英国、ドイツなど欧州では日本に比べ商用サービス開始は早い。

韓国は19年4月にサービスが始まり、1月時点での5Gユーザー比率は7%。直近の数字は確認しきれていないが、このペースで行けば9%程度。日本も目安として1年後に1割くらいまで行っていれば、かなり順調な普及ペースと言えるのではないか。

5Gのユーザー体験は、実は周波数に依存する部分が非常に大きい。5G導入の一番の目玉は、ハイバンドと言われるミリ波帯の周波数帯。かつてプラチナバンドといわれたのはUHFの少し上ぐらいのローバンドだった。5Gは中間帯のミッドバンドとハイバンドで使用免許が付与されている。ハイバンドだと5Gならではの高速通信が実現できるが、遠くまで届きにくい。電波が回り込まないので基地局を多数設置しなくてはならず、整備に時間がかかる。

国によって対応は異なり、韓国、中国の商用サービスはミッドバンドから入っている。米国はハイバンドとローバンド、ミッドバンドに分かれる。その結果、韓国は人が住んでいるエリアはカバーしたという状況。米国はエリア限定的で都市によってはまだこれからというところもある。

米国ではTモバイルとAT&Tがローバンドで5Gを提供しているが、毎秒50メガビット程度。ミリ波帯のハイバンドを使うベライゾンは、5Gで光ファイバー並みの毎秒700メガビットの通信速度をうたっているが、現状の日本の4G、LTEは同100―300メガビット。ミッドバンドで米国の5Gに近い通信速度が出ており日本のLTEがいかに優秀かがわかる。

5G導入時期が遅いから日本は後れているということではなく、日本は今後、先行する海外勢に追いついて行くとみている。

設備の仮想化・オープン化活発に

次に産業、社会向けでの利用を紹介する。工場の中を5Gで無線化、自動化したスマート工場のような話がよく出てくる。5Gの応用事例として、世界最大のモバイル産業見本市である19年のモバイルワールドコングレス(MWC)では、スウェーデンにある無人のトラックをバルセロナの会場から遠隔操作で動かすデモが行われた。人が運転すると危険な場所では、こうした遠隔運転、遠隔操作はかなり広がっていくだろう。

また中国・上海では新型コロナウイルスの感染防止対策として、5G搭載のロボットを遠隔操作し、病院の院内消毒や配達などに活用している。

エリアオーナーに周波数免許を割り当て5G設備を自前運用する「ローカル5G」は、日本が先進的な地位にあるものの、実はドイツが部分的に先行実施してきた。日本では制度面の事情から4G、LTEのプライベート設備での活用はほとんど普及していない。対して海外での事例はいくつもある。プライベートLTEで多く見かけるのは鉱山や風力発電所。もともと通信事業者のカバーエリアではないが、遠隔操作や遠隔監視のニーズがある。

スウェーデンにあるトラックをバルセロナのMWC2019の会場から遠隔操作するデモ(岸田氏提供)

(動画を上映)これは英国のネットスーパーの物流配送センターでの例。多数の自走式のロボットが注文された商品を倉庫から取り出し、置かれた箱に商品を高速に振り分けていく。Wi―Fiではスペックが足りないため、プライベートの4Gネットワークが使われている。

ドイツのローカル5Gでは、実は日本ほど幅広い普及を目的としていない。大企業やインフラ向けを意図している。ドイツテレコムのソリューションでは工場の敷地内にアンテナを立て、1本のアンテナで通常のスマートフォン向けの電波と、工場内だけの電波の2種類を使い分けして、ローカル5Gのニーズに応えようとしている。

ローカル5Gはその場所のニーズにうまく合えば広がっていく可能性は十分にある。さらに通信装置の低コスト化に向けて仮想化、オープン化の動きも活発である。日本でも楽天がデータセンターの汎用機器に仮想化技術を導入し、設備全般にわたって低コスト化した通信ネットワークを実現しようとしている。

今年のMWCは新型コロナで中止になったが、各社が発表したプレスリリースから読み取れる新しいトレンドが「オープンラン(OpenRAN)」。RANとは無線アクセスネットワークのこと。仕様をオープンにすることで、どの機器ベンダーでも製造できるように、という話が盛り上がってきている。実はそうした動きは2、3年前からあり、フェイスブックが新興国向けにテレコムネットワークを普及させることを目的に始めた「テレコムインフラプロジェクト(TIP)」には、通信事業者や大手IT企業が参画する。

端末+生活様式変える可能性

最後に5G時代になって何が変わるのか。一つは大容量のデータ通信でコンテンツがリッチになる。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)も含めリモート環境で高い臨場感が得られ、遠くのものの動きを近くに見せるテレプレゼンスのようなサービスも出てくるだろう。また、エッジコンピューティング連動の5G端末が登場すれば、端末で行う演算やデータ処理をエッジでできるため、端末の省力化が進む可能性がある。モバイル端末が軽量化、多様化する可能性が広がる。今経験しているスマホ依存の生活様式がかなり変化することも考えられる。

すべての問題を解決できるわけではないが、社会全体を変えていく、その大きな要因として5Gが利用されていくのではないか。

(2020/5/28 05:00)

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