東北大学多元物質科学研究所 創立20周年【PR】

(2021/12/20 00:00)

 2021年、創立20周年を迎えた東北大学多元物質科学研究所(多元研)。素材工学研究所、科学計測研究所、反応化学研究所の3研究所を統合してスタートした。設立当初からのキーワードは「融合」。有機物と無機物など異なる物質の融合や、材料科学、計測科学、生命科学など異なる分野の融合など、多元的な視点に立った独創的な研究が展開されている。

「あらゆる“もの”を多元的に研究する」

  • 東北大学多元物質科学研究所 研究所長 寺内正己

ごあいさつ

 多元物質科学研究所(多元研)創立から20年が過ぎました。従来の区別や枠にとらわれない、物質、材料だけでなく、それを生み出すプロセスや評価技術までをも含む、あらゆる“もの”を多元的に研究する、特徴ある研究所として2001年4月に発足しました。その礎は、創立1941年以来受け継がれてきた多元研の前身である、選鉱製錬研究所(素材工学研究所)、科学計測研究所、非水溶液化学研究所(反応化学研究所)の多くの輝かしい研究成果であり、それらは漏れることなく多元研に引き継がれています。資源から最先端素材までの“プロセス軸”、無機・有機・バイオなどあらゆる物質を含む“物質軸”、そして、ナノからマクロまでの“評価計測軸”を、ハイブリッドにカバーした、独創的で斬新な研究を行うと共に、民間等との共同研究も数多く進められています。

 10年から始まった、先駆的なネットワーク型共同利用・共同研究拠点事業(北大電子研、多元研、東工大化生研、阪大産研、九大先導研の連携事業)の第2期活動(16年度から)では多元研が拠点本部を務め、その活動に対して最高のS評価をいただきました。一方で、青葉山新キャンパスに建設中の次世代放射光施設計画推進の基幹部局として、16年度から大学・宮城県そして東北経済連合会とともに活動してきました。19年10月には放射光利活用のための学内組織「国際放射光イノベーション・スマート研究センター」が発足し、多元研から複数の研究グループが異動してその活動を支えております。

 さて、11年3月の東日本大震災から10年が経過しました。多元研は物質材料研究による東北復興への貢献と、日本の未来を背負う優秀な研究者の輩出を、今後も積極的に担っていきます。皆様方の益々のご健勝とご発展を心より祈上申し上げるとともに、今後とも、変わらぬご支援を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

浸透した多元物質科学

  • 多元研西1号館(科学計測研究棟S棟)

◇分野融合

 物質、材料だけでなく、プロセスや評価技術など、あらゆる対象を多元的な視点から研究する組織を目指し、分野融合を進めた多元研。設立当時は聞き慣れなかった「多元物質科学」の名称も今では広く浸透した。

 現在の多元研は、有機・生命科学、無機材料、プロセスシステム工学、計測の4研究部門と、金属資源プロセス、マテリアル・計測ハイブリッドの二つの研究センターから構成され、48の研究室を配置。民間企業との共同研究部門として、非鉄金属製錬環境科学研究部門(住友金属鉱山共同研究ユニット)、製鉄プロセス高度解析技術共同研究部門(JFEスチール)、次世代電子顕微鏡技術共同研究部門(日本電子)を持つ。

◇将来を見据えて

 東北大学青葉山新キャンパスには、24年度に本格稼働を予定する「次世代放射光施設」の建設が進む。多元研はニーズ調査時からこの放射光施設の整備推進に関わってきた。また、東北大学は計測科学と計算科学の融合を目指す「ソフトマテリアル研究拠点」を立ち上げ、ポリマーからバイオまでを広くカバーするソフトな材料の研究開発力を強化している。多元研は、その主幹部局を担う。

 多元研の歴史は前身となる3研究所が刻んできたものを含めると約80年にもなる。この間受け継がれてきた科学を礎とし、未来に照準を定めた多元研での「知」の融合はこれからも続く。

雨澤研究室「エネルギー材料とオペランド分析」

  • 全個体LIBのオペランド計測/3D反応分布

 「電源となる電池がなければロボットだって動かない。電池の力をフルに引き出すためにその中で起きている反応を直接観察してみないか」―。研究室に興味を持つ機械系の学生にはこう話しかけるという雨澤浩史教授。固体イオニクス・デバイス研究分野の雨澤研究室では、動作している電池の内部での反応を直接観察できる「オペランド分析」と呼ばれる手法で、電池を高性能化する研究に取り組んでいる。

 雨澤教授は「電池の中を診断する医者のような役割を担っている」と自身の研究内容を表現する。電池の中を直接観察することは、リチウムイオン二次電池(LIB)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)などの電池の高出力・高容量化や耐久性・安全性向上の第一歩となる。放射光を使った独自の分析技術を開発し、新材料開発に活用している。

 雨澤研究室は、蓄電池内での反応の進行を、非接触・非破壊かつリアルタイムで、3次元の高い空間分解能(数マイクロメートル)と時間分解能(数十分以下)で追跡できる観察手法を確立した。この技術を用いてバルク型全固体リチウムイオン電池の合剤電極における3次元反応分布をオペランド計測することにも成功している。この手法は、現在開発が進んでいる全固体リチウムイオン電池の高性能化につながると期待されており、今後、さらに高い空間・時間分解能を実現するため、分析技術の高度化を進めている。

 この他にも最近の研究成果として、LIBの異常発熱の原因となる、酸化物電極材料からの「酸素脱離」のメカニズムの解明がある。LIB内部でのガス発生や異常発熱の回避は、電池の安全性向上に欠かせない。雨澤研究室では、独自の分析技術を用いることで、酸素脱離とそれに伴う結晶構造変化を捉えることに成功した。

 雨澤教授は、「今後もこれらの分析技術を駆使して、さまざまな次世代電池の開発につながる科学を解き明かしていきたい」としている。

陣内研究室「高分子材料と原子レベル解析」

  • 高分子が自発的に形作るナノスケールの3次元構造。最先端の電子顕微鏡による観察例

 プラスチック製品などソフトマテリアルの構造をナノメートルスケールから調べることで高品質化や安全性の向上につなげる-。高分子物理化学研究分野の陣内研究室は、1本の高分子が材料の中でどんな形をしているのか、どのように変形するのかに注目して研究を進めている。陣内浩司教授は「つまるところそれが材料の性能を決定する」と強調する。実際に材料が使われている状態での構造の変形を観察し、その知見を計算科学や放射光実験と共に用いることで、材料の特性を理解することが研究室の目指す方向だと言う。

 材料の微細な構造を調べるにはさまざまな方法がある。陣内研究室では、電子顕微鏡技術を使ってソフトマテリアルの構造を分子・ナノスケールで3次元的に観察することを得意としている。最近は、高分子材料内部における微細構造の変形時の動きの可視化にも取り組んでおり、電子顕微鏡と関連技術の開発・改良を進めている。これらの技術により高分子材料を静的・動的両面から詳細に知ることで、材料の高性能化が期待できる。

 高品質なタイヤづくりにつなげる-。産学連携の成果として、陣内研究室は、エコタイヤの基盤技術開発に貢献してきたが、2017年には、タイヤ内のゴムとスチールコードの接着劣化を3次元で解析する技術の開発にも成功した。ゴムと金属、すなわち有機物と無機物の接着状態の解明が、強靱でパンクしにくい安全なタイヤの開発につながる。

 この研究のターゲットは、タイヤの補強材として使われるスチールベルト材。同ベルト材はゴムとスチールコードを接着して作られている。ゴムとスチールコードの接着保持力がタイヤの耐久性を左右することから、微細領域での構造解析が求められていたという。陣内研究室は、これまでに培った技術を駆使し、接着界面の3次元構造の可視化を可能にし、破壊メカニズムを明らかにした。

 ソフトマテリアルからなる複合材料の微細な構造を明らかにしたい「産」のニーズは根強い。陣内教授は「今後は計算科学分野との連携を深めて、高分子材料の構造解析技術をより高度なものへと磨いていく」としている。

稲葉研究室「最先端計測技術が明らかにするタンパク質の新たな分子描像」

  • 研究により決定されたATP結合前の「SERCA2b」のクライオ電子顕微鏡構造

「細胞中で起きているタンパク質の品質管理の仕組みを明らかにする研究を進めている」と話すのは生体分子構造研究分野の稲葉謙次教授。稲葉研究室は、多元研が柱の一つとする生命科学分野での研究に取り組む。

 細胞中にはその恒常性を維持するための巧妙な仕組みが備わっているという。正しく形成されたタンパク質だけが生き残り、誤った構造をもつもの、使命を終えたものは分解・除去される。そうしたタンパク質の品質管理とも言える仕組みが、最先端の計測技術を用いて、解き明かされつつある。多元研には各種の計測技術を持つ研究室が存在する。稲葉教授は「独自の計測技術を持つ研究者らとの連携が我々の強みになっている」と語る。

 最近、稲葉研究室は東京大学大学院医学系研究科と共同で、タンパク質など生体高分子の構造解析を可能とするクライオ電子顕微鏡技術を用いて、細胞中のカルシウムの恒常性維持に必要な小胞体膜局在カルシウムポンプ「SERCA2b」の反応中間状態の構造を決定した。この成果は、カルシウムポンプのエネルギー供給を担うATP(アデノシン三リン酸)の取り込みに関わる、新たな分子機構の解明へとつながった。

 SERCA2bの遺伝子変異による機能不全が皮膚病などを引き起こすことが知られている。この研究で得られた知見は、細胞内のカルシウム恒常性維持機構の破綻が起こすさまざまな疾病の原因解明や治療方法の開発につながるものと期待されている。

 東北大学青葉山新キャンパスに建設が進む「次世代放射光施設」。高輝度な軟X線領域の光源が整備され、分子イメージングなどタンパク質の解析への新たな技術の応用が期待される。将来的には創薬などへの展開も視野に入れる稲葉教授は「タンパク質の品質管理機構の全貌解明に向け、今後も全力で研究を進めていく」としている。

寺内研究室「顕微軟X線発光分光措置の商用化」

 「見えなかった世界を見えるようにする」―。電子回折・分光計測研究分野の寺内正己教授は、「電子顕微鏡で捉えられる元素情報の範囲を広げ、産学連携によりその技術を世に送り出した」と語る。

 寺内研究室は日本電子、島津製作所、量子科学技術研究開発機構(現)と共同で、リチウムのような軽い元素の分析も可能な電子顕微鏡用の軟X線分光器を2013年に開発した。汎用透過電子顕微鏡(TEM)のみならず、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)や走査電子顕微鏡(SEM)にも搭載できる。開発には科学技術振興機構(JST)の事業化支援制度を活用した。

 多元研の機械製作工場で試作した装置が商品化に至った珍しい事例になるという。産学官連携で開発した新たな分光器のエネルギー分解能は、EPMAに用いられる通常の波長分散型分光器(WDS)よりも一桁以上高い。この分光器で取得したスペクトルから、ナノスケールでの化学結合状態の特徴を可視化することも容易になった。寺内教授は「産学官で組んだスクラムのどれが欠けても実現できなかった」と開発の経緯を振り返る。これまでに約60台販売されている。

 商品化された分光器は、今もその進化を続けている。共同研究開発チームは、商品化された軟X線発光分光器「SXES」を改良し、ホウ素の分析感度を3倍以上に高めることにも成功した。この改良は鉄鋼産業分野で注目を集めた。ボロンとも呼ばれるホウ素。鉄鋼材料の強度アップに重要な元素で、ホウ素の添加量がキーポイントなのだという。今まで捉えることができなかった材料中のホウ素が見えるようになり、新素材の開発が大きく加速される。

 電子顕微鏡用軟X線発光分光器の基礎研究に着手して約20年。寺内教授は「まだまだ進化は止まらない」と話す。

東北大学多元物質科学研究所のHPは こちら

 

(2021/12/20 00:00)

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