産業春秋／沖縄返還と若泉敬氏

　５０年を経た沖縄返還を、福井県から特別な思いで見つめた。国際政治学者として活躍した若泉敬氏（故人）の存在ゆえだ。生地の福井県越前市が４日まで開催していた企画展「世界への架け橋として、若泉敬」に立ち寄った

　国際的人脈を買われ、当時の佐藤栄作首相の密使を務め、米国と“きわどい”折衝を繰り返した。１９９４年の著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で米国との水面下の交渉の概要を明かし、２年後に６６歳で命を絶った

　沖縄返還の見返りとなる米軍の沖縄への核持ち込み、さらに「糸」で「縄（沖縄）」を買ったとされる日米繊維交渉にかかる密約が取り沙汰された。地元・福井には合繊の加工産地のにぎわいが姿を変える節目ともなった

　企画展は敗戦による精神的打撃から奮起して志を抱き、沖縄返還、さらに返還後の若泉氏の苦悩もたどっていた。若泉氏を研究した国際政治学者、外務省の元高官を招いた講演会は想定定員を超す聴衆が集まった

　密使として沖縄の本土返還に道筋を付けた若泉氏。だが在日米軍施設の７割が沖縄県に集中し、台湾有事など地政学リスクもくすぶる。県民が望む「基地のない平和な島」は返還５０年を経ても、なお遠い。