産業春秋／防災インフラツーリズム

埼玉県東部の浸水被害を防ぐ「首都圏外郭放水路」（春日部市）を見学した。１１６段の階段を下りると巨大な地下空間が出現する。「防災地下神殿」に例えられる調圧水槽は５００トンのコンクリート柱が林立し、息をのむ迫力だ。

水槽は長さ１７７メートル、幅７８メートル、高さ１８メートルで１２万トンを貯水できる。五つの中小河川の洪水は立坑に取り込まれ、地下トンネルを流れて水槽にたまり４台の巨大ポンプで江戸川に排水される。地下放水路では世界最大級とか。

見学ツアーは夏休みが明けても盛況だ。土日は２週間待ちの状況が続く。管理者の国土交通省によると、参加者はコロナ禍で年間約２万人まで減ったが、今年度は４万人を超える見込み。

ハロウィーンやクリスマスには神殿内を照らすＬＥＤ照明を白色から虹色に替え、華やかさを演出する。見学に食事や買い物を組み合わせたパッケージツアーも試行段階にある。

インフラツーリズムでは防災施設も観光資源になる。地下神殿は水の怖さを学びながら非日常を体験できる。洪水をいなす高度な技術の集積は壮大な機能美で見学者を魅了する。難点は１１６段の階段を上らなければ地上に出られないことか。足腰の衰えを痛感した。