会社は誰のもの(上)四半期報告書廃止、「決算短信に一本化」賛成8割

(2023/2/28 05:00)

  • 業務負担の軽減、経営の中長期視点での評価につながるとして、企業は四半期決算短信への一本化を歓迎する

約8割が「一本化」を評価―。日刊工業新聞社が主な上場企業を対象に実施した「四半期開示に関する調査」によると、「四半期報告書」が廃止となり「四半期決算短信」に一本化されることに「賛成する」と回答した企業は全体の79・0%に達した。実務負担軽減や長期投資を促すとの利点を評価した。一方、検討が始まった四半期決算短信の「任意化」についての評価は「どちらとも言えない」「わからない」が大勢を占めた。(総合1参照)

「反対する」はゼロ、実務負担軽減・長期投資促す利点評価

調査結果によると、四半期報告書が廃止となり四半期決算短信に一本化されることに関し、「反対する」企業はゼロだった。

「内容が同じような報告書を複数回提出することを見直すことは大いに賛成。(投資家の)短期思考が悪いとは言わないが、中長期の視点も大切と考える」(日用品)との声が上がった。「どちらとも言えない」との回答は19・6%だった。

金融庁は一本化が、開示の後退ととられないようするため、四半期決算短信での開示内容を追加する方向を示す。これに関し今回の調査で簡素化を求める声が相次いだ。具体的には「四半期報告書の内容を四半期決算短信に盛り込むことになると業務削減はさほど期待できない」(運輸)、「一本化後、四半期決算短信が四半期報告書を引き継ぐ形で拡充される可能性を懸念する。その場合は事実上の開示早期化となり企業側の実務負荷が過度に高まる」(銀行)、「一本化に伴う開示内容の追加は『セグメント情報』『キャッシュ・フロー情報』のみとして頂きたい」(電機)とのコメントが寄せられた。

金融庁は一本化した上で将来的には四半期決算短信を「任意化」する検討も始めた。それについて調査では「賛成する」が36・2%となり、「反対する」(13・0%)を上回った。賛成の声として「企業の短期志向を助長する可能性があるという観点のみならず、人的資源の効率的・効果的な投入といった観点からも義務化を廃止し、すべて任意扱いにすべき」(化学)、「全上場企業に一律義務付けを強制することは不要」(電機)との指摘があった。一方、任意化に反対する理由として「ステークホルダーのことを考えると、開示を後退させることはやりづらい」(素材)との声が上がった。

任意化された際の対応、「未定」・「わからない」7割

任意化された際の対応については「未定」と「わからない」を合わせて70・3%と大勢を占めた。「現行の四半期開示を継続する」(18・1%)、「開示内容を簡素化(欧州と同様、定性情報のみ)して四半期開示を継続する」(5・8%)、「開示回数を減らす(中間・本決算の年2回など)」(3・6%)と続いた。

「任意化により企業の情報開示の姿勢が問われることになると思うと、開示内容の質の面でも一層の検討が必要になると考えている」(サービス)。「四半期決算短信による一律的な情報の提供ではなく、各社が投資家のニーズに合った情報(重要業績評価目標など)の開示を拡充・充実させ、投資家との双方向の対話を深めていくのがあるべき姿」(商社)との声が寄せられた。

調査は1月下旬から2月17日まで実施、138社から回答を得た。

「任意化」議論、岸田政権誕生で加速 経営、長期的な視点重要

政府は金融商品取引法上の「四半期報告書」を廃止し、証券取引所の「四半期決算短信」に「一本化」するため、会期中の通常国会に金商法の改正案を提出する方針だ。四半期開示のあり方をめぐっては、中長期的な企業価値の向上や開示の効率化の観点から見直しが進められてきた。将来的な四半期決算短信の任意化については金融審議会(首相の諮問機関)で継続的に検討する。

四半期報告制度は2006年に法制化され08年4月に施行された。企業業績が短期間で大きく変化する中、投資家に対し企業業績のタイムリーな適時開示が求められたためだ。ただ投資家や企業経営の短期志向が高まり、株主の利益のみを最大化し、日本企業の持続的な成長を妨げているという弊害も指摘されるようになった。欧州ではすでに法令上の四半期開示義務は廃止されており、任意で四半期開示を行う企業もある。

18年に金融審の作業部会で四半期開示の見直しについて本格的に議論されたことがある。当時は中長期的な視点で投資を行う際にも進捗(しんちょく)状況を確認する必要があるとの意見が大勢を占め、見直しが見送られた。四半期開示の見直しの議論が急速に進んだのは、21年10月の岸田文雄政権の誕生が背景にある。「成長と分配の好循環」を柱とする「新しい資本主義」を掲げる岸田政権は、現在の資本主義経済が抱える持続可能性の欠如や中長期的投資の不足などといった課題に取り組む。岸田首相は「企業が長期的な視点に立って、経営を行うことが重要だ」と述べ、四半期開示の見直しに着手した。金融審の作業部会で議論が加速。22年6月に四半期決算短信への一本化が固まった。

当面は四半期決算短信は義務付けられるものの、今後は任意化が議論の焦点となる。任意化に向けては意見が割れている。「中長期の経営戦略の進捗状況を確認する上で有用」という意見もある一方で、「積極的な適時開示で期中に充実した情報を提供できれば、一律に四半期開示を求める必要はない」という考え方もある。適時開示の充実の状況をみながら議論が進むが、中長期的な視点で投資判断に必要とされる情報を十分かつ正確に提供する開示のあり方が求められている。

協力企業名一覧(順不同)

ルネサスエレクトロニクス、IHI、日本触媒、西部電機、ユーグレナ、ウシオ電機、日本航空電子工業、ダイフク、文化シヤッター、オカムラ、牧野フライス製作所、住友金属鉱山、ノーリツ、CKD、中央製作所、東急不動産ホールディングス、名古屋鉄道、日本ガイシ、ダイセキ、SOMPOホールディングス、東洋機械金属、東邦ガス、電通国際情報サービス、椿本興業、第一生命ホールディングス、シャープ、バンドー化学、ユアサ商事、東京海上ホールディングス、芝浦機械、ダイヘン、NEC、AGC、NTT、メニコン、インターネットイニシアティブ、東洋インキSCホールディングス、マクセル、三井化学、山善、DOWAホールディングス、TOTO、シスメックス、椿本チエイン、神戸製鋼所、住友ベークライト、花王、ノリタケカンパニーリミテド、川崎重工業、凸版印刷、パナソニックホールディングス、いちよし証券、昭和鉄工、セイコーエプソン、日立製作所、セイノーホールディングス、荏原製作所、J-MAX、DIC、日本車輌製造、商船三井、日本ゼオン、トーカイ、日本製紙、ファナック、富士フイルムホールディングス、ニコン、日本航空、ANAホールディングス、マネックスグループ、オービック、住友商事、リコー、イビデン、第一三共、日本郵船、三菱UFJ銀行、日本ハム、丸紅、富士電機、キヤノン、JR東海、ライオン、ソフトバンクグループ、ソフトバンク、双日、東レ、大日本印刷、アステラス製薬、JVCケンウッド、清水建設、三井住友フィナンシャルグループ、王子ホールディングス、三ツ星ベルト、不二越、東芝、JFEホールディングス、アシックス、KDDI、大成建設、レスターホールディングス、大和証券グループ本社、オリックス、JR東日本、沖電気工業、太平洋セメント、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、東京センチュリー、帝人、SBIホールディングス、カネカ、三井不動産、クボタ、T&Dホールディングス、東洋紡、みずほフィナンシャルグループ、いすゞ自動車、三菱重工業、千代田化工建設、三菱ケミカルグループ、富士通、中外製薬、日揮ホールディングス、住友化学、伊藤忠商事、テルモ、日本精工、大林組、豊田通商、野村ホールディングス、NTTデータ、BIPROGY、日本製鉄、資生堂、三菱商事、アマダ、DMG森精機(以上、社名非公開の1社を含む138社)

(2023/2/28 05:00)

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