[ オピニオン ]
(2015/12/17 05:00)
「たたら製鉄」は日本古来の製鉄法だ。たたらは本来、空気を送り込む「ふいご」の意味。我が国で独自の進化を遂げ、たたらで製造した玉鋼(たまはがね)は今も日本刀の制作に欠かせない。
山口県宇部市の県立宇部工業高校は、モノづくり教育の一環として全国の工業高校で唯一、たたらを取り入れている。今年も11月末の文化祭の期間中に玉鋼の原料となるケラ出しが行われた。
たたらは古くから、特に中国地方で盛んだった。操業を担う長を「村下(むらげ)」と呼ぶ。その1人が同校卒業生の木原明氏(80歳)だったことが縁となり、古代たたら製鉄の復元操業が2013年度から始まった。
木原氏は日立金属OBで、日本に2人しかいないたたら技法の国選定保存技術保持者。日本美術刀剣保存協会が島根県奥出雲町で運営する「日刀保たたら」の村下職をつとめるかたわら、学生の指導を続けている。
文化祭当日は午前中の元釜づくりに始まり、深夜の火入れから砂鉄と炭を入れる作業を繰り返す。2年生43人が、翌日の午後のケラ出しまで炎の熱さと外気の寒さに耐えて奮闘した。来年の夏には、希望者が奥出雲で小刀を製作する計画という。
一昼夜に及び、厳粛さすら漂う古代製鉄の一貫工程に挑んだ生徒の表情は真剣そのものだ。伊藤健司校長は「モノづくりの原点に立つことで生徒がまとまる。教育には極めて有意義な取り組みだ」と胸を張る。
少子・高齢化は都市部以上に地方都市に影響を及ぼしている。モノづくりを担う若者が減れば、製造業に立脚したわが国の経済は成り立たなくなる。同校の取り組みは「たたら復興」という技能伝承だけではなく、若者に製造業の魅力を伝える人材育成という面からも非常に有意義だ。
製鉄だけでなく、木工や染色、織物など地域に古くから伝わるモノづくり技術を次世代に伝える教育や制度が各地にある。日本が誇る“匠(たくみ)の技”をもっと若者に知らせ、活用してもらう工夫が現役世代に求められる。
(2015/12/17 05:00)