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深層断面/「もんじゅ」廃炉を視野に−核燃料サイクル岐路、プルサーマルに軸足

(2016/9/14 05:00)

政府が高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉を視野に検討していることが明らかになった。再稼働には数千億円の追加支出を要することから、一部に廃炉論が浮上していた。核燃料サイクルの軸足は実質プルサーマル発電に移る見込み。ただ、だぶつくプルトニウムの消費には不透明感が増す。核燃料サイクル政策は岐路に立たされた。(編集委員・鈴木真央、福沢尚季、古谷一樹、名古屋・杉本要)

  • 高速増殖原型炉「もんじゅ」(日本原子力研究開発機構提供)

日本は使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウムなどを有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としており、エネルギー基本計画では技術動向やエネルギー需給、国際情勢などの不確実性を踏まえて「対応の柔軟性を持たせることが重要」としている。

【技術開発に遅れ】

「もんじゅ」の廃炉はエネルギー政策を推進する上で柔軟性を欠き、技術開発の遅れを招くことにもなりかねないが、巨額の再稼働費用や年約200億円に及ぶ施設維持費などが重くのしかかる。

世耕弘成経済産業相は13日会見し、核燃料サイクル政策を進める立場として文部科学省が所管する「もんじゅ」について「求められれば意見を申し上げていく。まだ話し合いは始まっていない」と明かした。

ただ、「もんじゅ」問題に一定の決着を見ない限り、核燃料サイクル政策は「前にも後ろにも動かない」(経産省関係者)可能性があり、官邸主導での決着を望む声があるのも事実だ。

  • 四国電力伊方発電所(伊方原発)3号機

「もんじゅ」の廃炉が決まれば、同政策の中心は原子力発電所から取りだした使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムとウランをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料にして一般の原発で再利用するプルサーマル発電に移るだろう。

稼働中の原発では、四国電力伊方3号機の再稼働に合わせてプルサーマル発電が再開されたばかり。

青森県六ヶ所再処理工場の2018年度上期の運転開始を含め、「もんじゅ」抜きでも核燃料サイクル政策は維持できるとみている。

【国際社会が懸念】

日本が国内外で保有するプルトニウムは15年末時点で48トンに及び、保有量を増やしている状況に国際社会からの懸念もある。核燃料サイクル政策抜きに、原発政策は語れない。フランスなどとの国際協力を含め、研究開発も続けるべきだ。

■経産相、青森県知事と意見交換−安全確保・研究開発を強調

世耕経産相(写真右)は13日、三村申吾青森県知事(同左)と経産省内で会談し、核燃料サイクル政策などに関して意見を交換した。三村知事は核燃料サイクル政策の推進や高レベル放射性廃棄物の最終処分地の早期選定、原子力分野の人材育成と技術開発の強化策などの5点に取り組んでいくよう要請した。

世耕経産相は、自治体や国際社会の理解を得ながら引き続き核燃料サイクル政策を推進していくことや、高レベル放射性廃棄物に関しては青森県を最終処分地にせず、16年度中に適切な地域を提示する方針を示した。さらに原子力の利用に関しても、安全性の確保に向けて人材の育成や高度な技術の研究開発に取り組むことを強調した。

■保守管理の不備相次ぐ

  • 文科省のもんじゅ検討会(16年5月)

高速増殖原型炉「もんじゅ」が廃炉への道を進むことになった原因の一つは、相次いだ保守管理などの不備だ。もんじゅは95年にナトリウム漏れ事故が発生。10年5月に試験運転を再開したものの、同8月には炉内中継装置が落下する事故で再停止した。さらに12年11月には、約1万件の機器で点検漏れが発覚した。

【運営主体の変更】

原子力規制委員会は13年5月、保安措置命令により管理体制の再構築を求めた。しかし、その後も不備が続いたため、15年11月、もんじゅの運営主体として日本原子力研究開発機構が不適当と判断。もんじゅの運営主体を変更するよう馳浩文部科学相(当時)に勧告した。勧告では、半年以内に原子力機構に代わる運営主体の特定や、特定できない場合はもんじゅのあり方の抜本的な見直しを求めていた。

もんじゅの新たな運営主体などを検討するため、文科省は15年12月に有識者会議を設置。同会議は、16年5月にまとめた報告書案でもんじゅの運営主体が備えるべき要件を提言した。経営を協議する体制として、原子力以外の分野からの外部有識者が半数以上を占める組織体制の構築などが必要とした。

このほか冷却剤にナトリウムを使う炉の特性を踏まえた安全性確保や人材育成システムの構築などを盛り込んだ。

一方、「ナトリウムやプルトニウム燃料の取り扱い技術は、現状として原子力機構にしか存在しない」と、原子力機構の持つ技術に頼らざるを得ない見解も示していた。

■長期的に一貫性持った政策を−中部電力社長

中部電力の勝野哲社長(電気事業連合会会長)は13日の定例記者会見で、もんじゅを含む核燃料サイクルについて、「エネルギー資源の乏しいわが国において原子燃料サイクルは重要な政策。長期的に一貫性を持った政策を進めてほしい」との認識を示した。さらに、もんじゅを存続させるべきかとの質問に対し、「原子力発電は重要な電源として活用していければと考える。また原子燃料サイクルもウラン燃料の活用やMOX、プルサーマルを含めて重要だと思っている」と述べた。

さらに「将来、資源の獲得競争や枯渇化という懸念に対し、高速炉は有効な対処策。(核燃料)サイクルの延長線上にある高速増殖炉(の研究)も一貫性を持ってやってほしい」と政府に要望した。

《メモ》

もんじゅ=福井県敦賀市に設置されている高速増殖原型炉。発電できる高速増殖炉としては日本で唯一の原子炉で、運転しながら消費した以上の燃料を生み出せる。発電プラントとしての機能やナトリウムの取り扱い技術の確立など、高速増殖炉の技術実証と実用化に向けた研究開発を目的に設置された。発電とともに、種々のデータを取得。取得したデータを高速増殖炉の開発に利用する。94年に初臨界に達したが、翌年ナトリウムの漏えい事故が発生した。

(2016/9/14 05:00)

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