[ オピニオン ]
(2018/6/14 05:00)
文部科学省が12日に発表した科学技術白書は、第1章の「科学技術イノベーションの基盤的な力の現状・課題」の冒頭で、英国科学誌「ネイチャー」の「科学論文の国際シェアの低下など、日本の科学研究が近年失速している」との指摘を紹介した。論文数自体の減少や論文の質を示すトップ10%補正論文数(被引用回数が各年各分野で上位の論文数)の国際シェアの減少だけでなく、2017年の特許協力条約(PCT)に基づく国際出願数も中国に抜かれ、世界第3位に後退した。白書は「我が国の国際的な地位の趨勢は低下しているといわざるを得ない」と断じている。
白書は、問題点として「人材力」「知の基盤」「研究資金」を挙げている。人材力は博士課程進学者が減少していること、国際流動性が低く国際頭脳循環への参画が立ち遅れていると指摘。知の基盤は独創的・挑戦的な研究領域の開拓が少なく、研究の多様性に後れを取っている。資金は大学などの基盤的経費が減少ないし横ばい、大学研究費に占める民間負担割合が諸外国に引き離されているという。
00年になってからノーベル賞自然科学系3賞を受賞した日本人(外国籍含む)は17人になる。だが、日本の科学研究の現状が白書の記した通りだとすると、果たして将来にわたってノーベル賞受賞者が出るのかどうか心配になる。
人間は一定程度、豊かになると、がむしゃらさがなくなるのかもしれない。だが、天然資源小国の日本にとって最大の資源は「知」である。「知」が衰退すれば、国全体の活力も失われることは火を見るよりも明らかだ。
白書は「イノベーションの根幹を担う人材の力、多様で卓越した知を生み出す学術研究や基礎研究を支える研究資金といった基盤的な力の強化が必要」と記す。もちろん研究資金が豊富な方がよいのは当たり前だが、それだけではない。若者に現状に甘んじることなく、研究に限らず、何事にも世界にチャレンジする意識を植え付けることが重要ではないだろうか。
(2018/6/14 05:00)