[ オピニオン ]
(2018/8/16 05:00)
国全体の時間を夏の間だけ早める「サマータイム」導入に向けた検討が自民党内で進む。2020年夏に開催される東京五輪・パラリンピックの猛暑対策との位置づけだが、働き方改革や個人消費喚起への期待もある。過大な期待は禁物だ。
働き方やライフスタイルを見直す契機とするならば、国民生活への影響が大きいサマータイムをあえて導入しなくとも、夏に限らず労働時間を柔軟に見直すことで効率化を進める企業独自の取り組みを後押しすることで十分対応可能なはずだ。
外が明るい時間に仕事が終われば、家族らと過ごす時間が増え、個人消費の活性化につながるとの見方もあるが、果たしてそうだろうか。第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストの試算によると、サマータイム導入による消費押し上げ効果は約7532億円に相当する。
一方、中部圏社会経済研究所の島澤諭研究部長が総務省の家計調査を基に夏と冬の家計消費額を比べたところ、消費額、消費性向いずれも冬の方が大きかった。経済効果のみに着目するなら、サマータイムより冬の太陽が出ている昼間に休憩を与え消費機会を創出する方が効果的。島澤氏はこう指摘する。
ところが、政府主導の消費喚起策は成果を上げているとは言い難い。月末の金曜日に勤務時間を短縮する「プレミアムフライデー」が定着しない背景には、教育費負担や社会保障をはじめとする根強い将来不安がある。取り組みを広げる上で、特定業種にしわ寄せが及ばないよう取引慣行の是正も不可欠だが、こちらも手つかずだ。ITにより取引先や消費者が常につながり、サービス残業が常態化している現状でサマータイムが導入されれば労働時間の一層の増加につながることが懸念される。
エネルギー消費抑制を目指し戦後の一時期に導入されたものの、その後は浮上しては消えたサマータイム。過去の導入論議と現在の最大の違いは、デジタル技術の進展に伴いサービス形態は多様化、社会は複雑化している点にある。こうした構造的変化を見据えた議論を望む。
(2018/8/16 05:00)