[ オピニオン ]
(2019/7/24 05:00)
国内企業の生産性向上投資を促すことで、賃金向上と消費拡大を実現したい。
政府が23日に閣議配布した2019年度経済財政報告(経財白書)は、各種の労働市場の問題に焦点をあてた。中国経済の減速により輸出が弱含む一方で、内需は緩やかな回復を持続している。
国内企業では、人手不足感が高まり、女性や高齢者の就業が増えることによって実質総雇用者所得が増加している。これが内需回復の背景だ。回復を持続するためには、若年層の雇用・所得環境を将来に向けて安定させるとともに、教育費の負担軽減や労働時間短縮が求められるとしている。
マクロ経済の面では、妥当な分析といえよう。ただ、ミクロ経済の面からは、必ずしも十分とは思えない。
白書の調査を見ると、「売り上げが伸びている企業、離職率が高い企業」「賃金水準が低い企業」ほど人手不足感が高いとしている。他方で、「人手不足への対策として省力化投資を行う企業は2割程度と限定的」「人手不足感がある企業は労働生産性が低く、資本装備率も低い」と分析している。
また、女性や高齢者の活用については「多様な人材に対応した取り組みをしていない企業では生産性が低くなる」傾向があると指摘している。
これらを裏返せば、省力化投資や女性・高齢者活用に熱心な企業ほど生産性が高く、人手不足の悩みも小さい傾向が見られるということになる。しかし、現実の企業経営では、生産性向上投資の余力がない企業ほど業績低迷や人手不足に苦しみ、いわゆる“ブラック企業”化しているのが実情だろう。
リーマン・ショック以後、日本企業の収益は上向き、設備投資も増勢にある。一方、白書では輸出と設備投資の相関が強いことを指摘している。投資の目的が海外事業になっていることが想像される。
政府には、内需型の設備投資を促すことで生産性を高める施策が求められる。白書も、そうした踏み込んだ指摘がほしい。
(2019/7/24 05:00)