第52回機械工業デザイン賞IDEA、栄誉に輝く19製品

(2022/7/20 05:00)

審査概要

専門審査委員代表(千葉大学名誉教授)青木弘行

高度経済成長期の1970(昭和45)年、日刊工業新聞創刊55周年記念事業として発足した「機械工業デザイン賞」は、経済産業省・文部科学省・特許庁・日本商工会議所・産学6団体の支援を受け今日に至っている。

今回は、新型コロナの感染拡大が2年以上収束していないにも関わらず応募は36社38件(内、大企業28社30件、中小企業8社8件)と昨年に比べ増加に転じ、特に中小企業の応募が倍増した。その内容は工作機械や食品機械、ロボット関連製品、医療・福祉機器など多岐にわたった。

審査は4月8日開催の「第一次審査委員会(書類審査)」で19件を選定。感染に最大限の注意を払いつつ5月11日から6月10日まで延べ23日間、専門審査委員が応募企業や納入先を訪れ「第二次現物審査(出張審査)」を行った。その後、7月1日開催の「総合審査委員会」で慎重審議の結果19件を選定した。

今回の応募製品を総括すると、イノベーションを創出した事例が全体の約5分の1と例年になく活況だった。一方で、ノウハウの継承や省人化・自動化の実現へユーザーインターフェースを基盤としたソフトウエア開発に活路を求め、優れた操作体系を訴求する製品が多く見られた。デザインを広義に解釈する本顕彰制度の趣旨からも、これらソフト機能の充実策やハードとソフトの融合策、ハードのソフト化・ソフトのハード化は非常に好ましく、過去の受賞製品群と比較して完成度は格段に向上している。

開発担当者や関係各位に対する感謝の念と共に、専門審査委員を代表して深く敬意を表したい。

最優秀賞(経済産業大臣賞)

アマダ/アマダマシナリー デジタルプロファイル研削盤 DPG-150

プロファイル研削盤では業界初となるデジタルプロジェクターを搭載した。従来、作業者が肉眼で判断し行っていた精度計測と補正加工を自動化。独自の画像処理技術により、加工対象物(ワーク)形状の高精度計測、段取り時間ロスの大幅低減、加工品質の均一化を実現した。タッチパネル対応モニターで、指先での直感的な操作が可能。フルカバー仕様でありながら前面が大きく開くデザインとし、保守性を損なわない構造とした。

ソディック 高速造形 金属3Dプリンタ LPM325S

金属粉末の供給・回収・ふるい作業を自動で行う独自ユニットを標準搭載した。従来2日間要したこれらの作業を、ユーザー自身で2時間以内に終えられる。複数の粉末に1台で対応可能。交換作業は粉末ごとのユニットを付け替えるだけで済む。加工時に発生する金属蒸気の集積物(ヒューム)の回収能力も向上。機械、電源、周辺機器を一体のベースに搭載し、フルカバー内に収められるようにデザインするなど全体をコンパクト化した。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

オークマ 脱炭素・高能率生産対応 横形マシニングセンタ MA-8000H

省エネルギーシステムを刷新し、消費電力の見える化や不要な駆動・冷却停止の範囲を周辺機器にまで広げた。高精度を安定して維持しつつ消費電力量と二酸化炭素(CO2)排出量を従来比33%削減した。XYZ全軸の移動量を100ミリメートル伸ばし加工域を27%拡張した一方、外置きタンクを内蔵するなど設置面積は4%削減した。

ミツトヨ 高速焦点距離可変レンズ TAGLENS

超音波による液体の共振で超高速に焦点距離を変化させる独自の原理を採用した。高分解能でも合焦範囲が広く、高低差のあるワークも機械的な上下動なく素早く観察・測定可能。画像処理により全面にピントの合った画像を生成できる。パルス照明装置を用いることで、複数面同時観察といったより高機能な観察にも対応する。

日本商工会議所会頭賞

Keigan 自律移動ロボット KeiganALI AMR-ALI010

「誰でも素早く簡単に使える」をコンセプトに開発した自律移動ロボット(AMR)。自己位置推定と環境地図作成を行う技術「SLAM」による無軌道の自動運転だけでなく、カメラによるライントレース(有軌道)運転にも対応。本体天面にタップ穴を8カ所設け、フレーム装着など現場に応じた柔軟な仕様変更を可能にした。

和井田製作所 全自動5軸複合インサート研削盤 APX-F50

切削工具のインサート(刃先交換チップ)形状の複雑化に対応し、制御軸としてワーク変角軸を増やした。外周、ランド加工だけでなくブレーカー加工や溝入れインサートの加工が可能。テーブル旋回軸は従来機と共通化し、前後軸、左右軸の構造も従来機と同じにしたことで、開発時間の短縮とアフター作業の共通化につなげた。

日本産業機械工業会賞

三菱電機 CFRP切断用炭酸ガス三次元レーザ加工機 CVシリーズ

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)切断用の新型レーザー発振器と加工ヘッドを搭載した。熱影響を最小化しつつ、従来の機械加工と比べ約10倍の加工速度(板厚1ミリメートル)を達成。工具などの消耗部品が減るため、ランニングコストを大幅に抑えられる。炭素繊維の粉塵や樹脂のにおいの拡散を防ぐため全周カバーを設けた。

日本工作機械工業会賞

日本電産マシンツール 門型五面加工機 MVR-Hx シリーズ

主軸を内部から冷やす軸芯冷却機能を標準装備した。毎分8000回転の高速加工時も工具先端位置が安定。仕上げ加工の工具間段差を3・5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)以下に抑えられる。コラム内に温度制御媒体を封入し、環境温度変化の影響も抑制。高剛性シンメトリカル構造により熱変形しない機械を実現した。

日本電機工業会賞

東芝/東芝デジタルソリューションズ 量子暗号通信システム

重要な機密データを保護する暗号鍵を光子に乗せて伝送する。高速鍵配送、安定性、多重化などの特性で先端を走り、サイバー攻撃の脅威からデータ通信基盤を守る。前面のバーハンドルは通気性を確保しつつ孔を隠し、審美性と引き出しやすさを両立。ラックに複数台増設されても、一体感のある収納状態となるようにした。

日本ロボット工業会賞

ダイヘン 真空環境用ウエハ搬送ロボット UT-VDW3000

半導体製造の真空環境下で使う。ウエハー処理枚数は毎時650枚と世界最速級。アーム軸や旋回軸にダイレクトドライブモーターを搭載し振動を抑えた。アーム駆動を樹脂製タイミングベルトから金属製ベルトに変更し高精度搬送を実現。アームのスリム化、上下ハンドのピッチの工夫などで真空内での動作エリアを最小化した。

日本デザイン振興会賞

島津製作所 TOF-PET装置 BresTome

頭部と乳房の検査に1台で対応する陽電子放射断層撮影(PET)装置。全身用PET装置よりも優れた空間分解能で、精度の高い診断・治療に寄与する。検出器が効率良く移動する設計により、装置本体の小型化とともに、検査モードの迅速な切り替えを実現。本体上のタッチパネルモニター操作部で、素早い準備を可能にした。

日本デザイン学会賞

ホリゾン 無線綴じ製本システム iCE BINDER BQ-500

4クランプ無線綴じ機を中心とするシステム。本身投入装置と連結して本身の自動給冊を可能にした。見返しや寒冷紗の供給装置と連結することで上製本に対応する。製本機本体は本の厚さによって変更が必要な19カ所を最適値にする自動計算機能を搭載。システム全体のつながりを意識し、高さをそろえて上下ツートーンとした。

審査委員会特別賞

キャニコム 四季折々草刈機 りんごブラッサムまさお CM2205

リンゴ果樹園に特化した草刈り機。刈幅は975ミリメートルと915ミリメートルの2種類に対応し、果実が成長して枝に支柱を入れた後も支柱間の草刈りをしやすくした。垂れ下がった果樹下を通り抜けしやすいように、車高は最も高いハンドル部で従来機比約6センチメートル低い85センチメートルに設定。車体は枝に引っ掛かりにくい曲線形状を意識した。

クボタ 色彩選別機 KG-S110X

出荷米に混入する不良品や異物を除去する装置。1度の処理のみで高精度の選別を可能にし、安定した処理能力を確保できる。工具なしでカバーを取り外せるため、日々の清掃・点検が容易。ユーザーを「作業者」「管理者」「サービススタッフ」の三つに分け、それぞれに適した操作タッチパネルの画面設計・情報設計を施した。

新東工業 金属検出機 テクノアイ

独自の「磁気バイアス型磁力線検出方式」により、一般包装からアルミニウム包装まで食品の金属異物検出を1台で担える。高濃度塩分商品にも対応する。従来の検出機と比べ検出領域を約2分の1に小型化。3・5インチカラータッチパネルで直感的な操作を可能にした。工具を使わずに搬送部のベルトを交換でき、保守もしやすい。

新日本工機 門型5軸マシニングセンタ RB-FⅡシリーズ

高剛性連続5軸ヘッドで、鉄や難削材の連続加工に対応する。ワークへの接近性を向上させるためヘッドを小型化。主軸頭はカートリッジ式で6種類の主軸を選択できる。デュアルディスプレーを導入し、メーンの数値制御(NC)画面で操作性を確保しつつ、サブのパソコン画面で機械稼働状況などを表示できるようにした。

高松機械工業 次世代型3スピンドル倒立旋盤 XV-3

三つの主軸を搭載し旋削から穴開けまで多様な加工に対応する。主軸が移動して搬送装置にワークを受け渡すセルフローディング構造の採用や、搬送装置にワーク反転機能を持たせることで段取り替えを省力化。主軸を倒立させて機械前面に搭載、主要機構部品も前面に配置することでメンテナンスを容易にし、省スペース化した。

ツガミ ターニングセンタ SS26MH-Ⅱ-5AX

主軸移動型自動旋盤とマシニングセンターを融合した複合加工機。棒材から複雑形状の部品を量産できる。最高毎分2万回転の高速工具主軸を標準搭載。ガイドブッシュ搭載時は最大加工長300ミリメートルの長尺部品に対応する。機械本体前面から加工点までの距離を最小にしてオペレーターが接近しやすくし、使い勝手を高めた。

安川電機 食品加工及び中食市場向け 特殊表面処理・食品仕様ロボット MOTOMAN-GP8

塗料で表面処理をせず、耐食性を高めたメッキを採用した。外観のボルトもステンレスボルトを使用。剝がれた塗装片が食品に混入するリスクをなくし、水やアルコール、酸性・アルカリ性洗浄液での清掃に対応した。雑菌繁殖や腐敗を防ぐ低温環境での作業に配慮し、低温でも通常動作を確保できる食品機械用潤滑剤を使用した。

(2022/7/20 05:00)

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