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深層断面/自動車メーカー、“つながる車”を強化

(2016/12/27 05:00)

自動車メーカーが“つながる車”を強化している。トヨタ自動車は2020年までに日米で販売するほぼ全車に通信機を搭載し、日産自動車も17年から通信機をオプション設定する。カーナビゲーションシステムやスマートフォンを通じた情報サービスはこれまでもあったが、車両情報を詳細に管理して事前故障診断などのきめ細かいサービスにつなげる。トヨタはつながる車を基に、シェアリング社会を見据えた移動サービスの収益化も模索する。(編集委員・池田勝敏、名古屋・杉本要)

  • スマホを利用したスマートキーボックス

  • 11月に東京都内で開いたコネクティッド戦略の説明会

通信機、全車搭載の時代へ

■トヨタ−移動サービスにも収益源

【提携拡大】

「いつまでも『三河の鍛冶屋』でいいわけがない。トヨタは移動サービスのプラットフォーマーにならなくてはいけない」。トヨタの友山茂樹専務役員は11月の事業説明会で記者団にこう話した。

同社は20年までに日米で販売するほぼすべての乗用車に車載通信機(DCM)を搭載。DCMが吸い上げた情報で基盤(プラットフォーム)を構築し、カーシェアやライドシェア(相乗り)、テレマティクス保険といった車を使ったあらゆるサービス事業者と提携する戦略を描く。

例えばライドシェア先進地の米国ではウーバーテクノロジーズと今春に資本・業務提携。ウーバーの運転手が得た収入を車両のリース料金の支払いに充てられる「フレキシブルリース」の実証サービスを年内に米国で始める。10月には、個人間カーシェア事業の米ゲットアラウンド(カリフォルニア州)に出資。トヨタが開発したスマホで車の鍵の開閉やエンジン始動ができるシステムの実証実験を17年1月に米国で始める。いずれもプラットフォームを活用するサービスだ。

【猛烈な危機感】

トヨタが外部との提携を本格化する背景にあるのは猛烈な危機感だ。「つながる車にしても自動運転にしても、将来はクラウドに付加価値が移る可能性がある。携帯電話でも同じことが起きた」(友山専務役員)。車を作って売る事業モデルから、車を使った移動サービスにも収益源を広げる必要があるとの考えだ。

「新プリウスPHVはコネクティッド戦略の先陣を切るクルマ」(友山専務役員)だ。今冬発売予定の新型プラグインハイブリッド車(PHV)「プリウスPHV」はほぼ全車にDCMを標準搭載し、通信料は3年間無料。スマホから車の充電確認やエアコン操作をできるようにするほか、走行情報などのビッグデータ(大量データ)を駆使して車の故障可能性を事前に知らせるサービスなども始める。

【22年には3倍】

つながる車のつながり方は二つに大別できる。米アップルの車載ソフトウエア「カープレー」や米グーグルの同「アンドロイドオート」のようにスマホによるものと、トヨタのDCMのように通信機を組み込むものだ。IHSマークイットによれば通信機型のつながる車は22年に15年比3倍に拡大する。スマホ型のつながる車よりも拡大するとの見方だ。「事故時の緊急コールや車両盗難時の追跡などの機能は通信機でないと原則できない」と棚町悟郎主席エキスパートは見る。

また、スマホが提供する音楽などの情報サービスと違って「車両情報は機密性が高く、別回線の通信機でつながる必要がある」と指摘する。

■日産−車両情報、リアルタイム管理/セキュリティー対策が大前提

  • 電池監視などの機能を搭載しているEV「リーフ」

【修理を円滑化】

日産も通信機の搭載を拡大する考え。後付けできる車載通信機を日本とインドで17年に発売する。新車販売時にオプションとして選べるようにするだけでなく、既存車にも付けられる。トヨタと同様、車両情報をリアルタイムで管理して修理の時期を予測。補修部品のサプライチェーンで共有して、修理サービスを円滑にする。対象国を順次広げ「将来は世界の日産車の保有台数の30%に搭載する」(ケント・オハラ常務執行役員)といい、つながる車でサービスをきめ細かくし顧客の囲い込みにつなげる。電気自動車(EV)「リーフ」にはすでに同様の通信機を搭載しており、電池を監視するなどの機能があって先行しているが、他の車両にも拡大する。

日産もトヨタと同様プラットフォームの構築を進める。仏ルノーと組んで、両社共通の情報プラットフォームを開発中だ。ルノー・日産連合のオギ・レドジクSVPは「第三者にサービスを開発してもらう際にブランドごとにシステムが異なると手間になるからそれを避ける」と話す。

【外部と連携も】

日産の新興国専用ブランド「ダットサン」や高級車ブランド「インフィニティ」を含め日産とルノーの全車種に展開するサービスの土台とする。仏ソフトウエア会社を買収してサービスの開発人材を拡充したが「それでもすべて自前ではできない」(同)として今後も外部との連携を模索する。

「車メーカーはこれまで馬力や室内空間など車そのものに焦点を当ててきたが、最近はサービス指向になっている」(レドジクSVP)。サービスの拡充には車のつながる化が避けられない。ただ車がつながればサイバー攻撃にさらされるリスクは増大する。車のつながる化には万全なセキュリティー対策が大前提となる。

《私はこう見る/IHSマークイット 主席エキスパート 棚町悟郎氏−海外事業者との連携カギ》

つながる車の世界販売に占める割合は15年は3割程度だったが、22年にはほぼすべてとなる。車の概念が変わり、つながって当然の時代が来る。消費者のニーズに対応するだけでなく、完全自動運転車を安全で快適に走らせるために自動車メーカーにとってつながる車の重要性は増す。

つながる車を自動車メーカーの新たな収益源とするには課金がカギになる。例えば、車載アプリや車載電子機器のソフト・ファームウエアの更新時の課金が挙げられる。米テスラ・モーターズが先行しているOTA(無線による遠隔ソフト更新)はリコール費用削減にもつながる。

日本車が欧米系に比べ、つながる車の取り組みが遅れているのは、自動車の安全性の評価や自動運転に関する法規制、ガイドライン整備の遅れが要因とみられる。日本車の課題は、どのように海外の通信事業者や仮想移動体サービス事業者と連携できるかだ。

(2016/12/27 05:00)

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