[ オピニオン ]
(2017/11/23 05:00)
今のスーパーコンピューターをはるかに超える計算能力を持つ「量子コンピューター」の国産機がついに登場した。IT分野を海外勢に牛耳られている日本にとって、起死回生の切り札になることを期待したい。
NTTが試作機を完成し、27日からクラウド経由で一般ユーザーが無償利用できるようにする。国立情報学研究所、東京大学などと共同で、内閣府の研究プロジェクトとして開発した。
量子コンピューターは量子力学と呼ぶ現象を利用し、データを「0」と「1」の重ね合わせ状態にして並列計算する。これまでは米国のIBMやグーグル、インテルなどが開発を進める「量子ゲート方式」と、東京工業大学の西森秀稔教授らが提唱した理論に基づき、カナダのDウエーブ・システムズが2011年に商用化した「量子アニーリング方式」がある。
一方、NTT機は同社の武居弘樹上席特別研究員らが開発した「量子ニューラルネットワーク方式」を採用する。既存の両方式がマイナス270度Cの低温かつ真空環境に置く必要があるのに対し、常温・常圧環境で使える点が最大の特徴だ。
リング状の光ファイバーの中を最大2000個の光パルスを周回させて計算する。研究担当の篠原弘道NTT副社長は「光ファイバー技術をコンピューターに応用した」と解説する。既存スパコンでは長時間かかる「組み合わせ最適化問題」と呼ばれる難問を瞬時に解き、交通渋滞の解消や創薬、生産計画の最適化などに威力を発揮する。
IBMなどはクラウド経由による試作機の無償公開で先行しており、今後、世界中の開発者を巻き込んだソフトウエアの開発競争が激化するのは確実だ。鵜浦博夫NTT社長は「日本勢で全てを創り上げるのが理想だ」という。
量子計算機はあくまでも限られた計算分野に特化した「専用マシン」であり、従来型計算機を駆逐するものではないという指摘もある。ただ国内産業の高度化とIT産業の復興に向け、NTTには先頭に立って事業化をリードしてもらいたい。
(2017/11/23 05:00)