[ オピニオン ]
(2018/3/12 05:00)
各地の原子力発電所の再稼働が着実に進む中で、安全を生むための「人づくり」に一段と磨きをかけたい。
7年前の東日本大震災直後、運転中に津波に襲われた三つの原発の動向に日本中が神経をとがらせた。東京電力の福島第一原発は不幸にして大量の放射性物質の外部飛散を防げなかったが、他の2原発は最悪の事態を免れた。当時の関係者の懸命の努力を忘れてはならない。
事故後に発足した原子力規制委員会は、既存のすべての原発に厳しい新基準への適合を求めた。初代委員長だった田中俊一氏は昨年、退任を前にした会見で「事故を二度と起こしてはならないとの立場でやってきた」と述べている。
つまり規制委は、政治的な意味での原発の是非を論じるのではなく、安全と信頼を取り戻すためにあるということだ。同時に田中氏は、厳しい規制行政を常にオープンにしていく仕組みの重要性を強調した。中立で透明性のある規制行政が、原発の安全確保に欠かせないというメッセージであろう。
2代目委員長の更田豊志氏は就任後の会見で「初心を忘れず」と述べ、事故の衝撃を「組織として刻み込む」姿勢を示した。規制委が今後も、事業者を厳しく監視・指導していくことは原子力安全の根幹だ。
それに加えて重要なのは、原子力技術者や実際の作業員はじめ安全を確保するための人材の確保である。既存原発の運転停止が長引く中で、稼働の実経験を持つ最前線の要員は時間とともに減少している。
一方、大学レベルで原子力関連の学科の人気低迷や、福島の廃炉作業に多くの人手が取られている。このままでは将来の安全要員の不足が懸念される。更田委員長も「最も深刻」と憂慮を示している。
原発は今後も当分の間、日本の基幹エネルギーの一翼を担う存在だ。原子力安全は関係者の努力の不断の連続でしか達成できない。「人づくり」を怠れば危機を招く。設備と人材の両面で、原発への継続的な投資を確保することが重要だ。
(2018/3/12 05:00)