(2021/9/16 05:00)
企業が大学の人材育成に関わる産学連携教育の潮目が変わってきた。社会的インパクトに向けた新時代の教育法として、産も学も伝統的な考え方を転換する必要がありそうだ。
東京大学大学院工学系研究科は規模の大きな企業寄付により、人工知能(AI)や起業家教育の講座を相次いで開設した。
一つはPwC JapanグループによるAIをテクノロジーとビジネスで理解する人材育成だ。もう一つはKDDIなどによるモノづくり系ベンチャー(VB)の大成功に向けた起業家教育で、3年間に1億2000万円という教育目的では破格の金額も話題を呼んだ。
ともに一部は社会人にも開放する。同大工学部はこのような新たな仕組みの整備に向けて、「産学連携教育協議会」を立ち上げた。
技術経営戦略学専攻の坂田一郎教授は「AIや起業は現場の“経験知”が重要な分野だ。社会のソリューションを生み出すには大学の専門知と、両方が必要だ」と強調する。共同研究的な側面もある。企業側はここから新ビジネスを率いる人材を育て、獲得したいからこそ資金提供にまで動くのだ。
従来の産学連携教育は、低学年の学生に実社会の理解を促すための教材・講師の提供に留まり、企業側のメリットが乏しかったのとは対照的だ。
AIや起業は学びのスタイルも、積み上げ式の伝統的な工学教育と異なる。実際に学部4年生と博士課程学生が席を並べることもあるという。演習の要素が大きいのも特徴だ。AIが専門で多くの起業家と接する松尾豊教授は「これらは出口(社会)に近いテーマ。世の中にインパクトを出すという意識が先にあり、そのために必要なスキルを学ぶ形だ」と強調する。
産業界の経験知を吸収する教育手法は、イノベーション創出に熱心な米国大学などで一般的だが、日本の研究者の中にはまだまだ批判的に捉える人もいるとも聞く。東大の取り組みが、産学連携の成果を生み出す新たなスタイルとなるか、注目していきたい。
(2021/9/16 05:00)
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