(2020/1/13 05:00)
金型の加熱、せんべいやバウムクーヘン焼き機、ダニ退治―これら全てを1つのヒーターが担っていると知ったら驚く人も多いだろう。ヒーターを製造しているのは、愛知県安城市にあるメトロ電気工業だ。
同社が製造する「オレンジヒート」は、カーボンの繊維を板状に編みこんでフィラメントにして、不活性ガスと共に石英ガラス管に封入したヒーターである。電気ヒーターは出力が弱い、というイメージがあるが、2000℃ほどまで出力できるという。オレンジヒートが搭載された製品も、大規模な加熱器からハンディータイプまで多様である。
「厚さや大きさを変えることで1つの材料からいろいろな仕様の製品を作ることができるのが弊社の強み」と川合誠治社長は語る。この強みを生かした、幅広い導入事例を紹介したい。
自動車関連
産業機器向けの製造に進出したきっかけが、中部電力と共同開発した金型加熱器だ。もともとガスで行っていた金型加熱だが、電気加熱に置き換えたことで加熱ムラが抑えられ、作業環境向上や省エネにつながった。2019年11月には「ハイパワー金型加熱器タフ」を開発。下金型を効率的に加熱できる仕組みに改良し、加熱時間を従来比で約20%短縮した。
また、自動車塗装の乾燥工程への進出も狙う。現在、自動車の塗装は有機溶剤で行っているが、環境への配慮から水性塗料に置き換える動きが高まっている。しかし水性塗料は乾燥しづらく、そのためのヒーターの研究にも力を入れている。
近年、使用拡大が期待されている炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)向けの製品も好調だ。2019年9月にはCFRTPのプレス成形前の予備加熱用を想定したカーボンヒーター式加熱システムを開発した。厚さ0・6ミリメートルのCFRTPシートを約30秒で常温から280度Cに昇温できる。起動から所定の出力まで約1秒で達することもあり、作業時間が従来の5分の1に短縮できるようになった。
食品関連
食品工場や店舗などへも導入が進んでいる。愛知県の有名米菓メーカーへは6メートルの連続焼成機を導入した。温度管理が容易にできるほか、焼成機の場所によって温度を変えることもでき、せんべいの食感にバリエーションを持たせることが可能だ。
愛知県の関谷醸造とは共同で業界初となる赤外線ヒーター式「甑(こしき)」を開発した。関谷醸造では近年、小ロット多品種のオーダーメード酒が増えていたため、少量でも安定した品質の蒸米が短時間でできる甑が求められていた。ヒーター式甑の開発により、60kgから250kgまでの酒米に対応ができ、細かな温度調節も可能になった。
店舗での加工や調理向けに小型機器の導入も多様な事例がある。「先日はバウムクーヘンのイベント用に店頭でバウムクーヘンを焼くための小型機を導入しました」(川合社長)。そのほか、すしチェーン店でネタをあぶるためにハンディータイプのヒーターが活用されていたり、焼鳥チェーン店には焼鳥機を、菓子販売店には店頭でポテトチップスを揚げるための機器を導入したりと幅広く活用されている。また自社製品として鉄板焼き機や電気七輪も販売している。
さらにコーヒーやお茶などの「焙煎」への導入を研究しているという。現在は直火や熱風での焙煎が一般的だが、「電気式にし焙煎温度に変化をつけることで新たな風味が見いだせるかもしれない」(川合社長)。
暖房、ハウスクリーニング
広い工場で全体を暖房しようとするとたくさんのエネルギーが必要だが、作業者は点在している場合も多い。赤外線式ヒーターであればスポットで人を狙って暖めることができ、風を起こさないので作業に支障をきたしにくい。天井から吊り下げ、広範囲を暖める大型のものや、机や作業台に設置するパーソナルヒーターなどのバリエーションがある。
ヒーターの出力を変えればハウスクリーニング向けにも活用が可能だ。カーペットやソファなどに照射することで、加熱による乾燥、殺菌、ダニ駆除の効果があるという。今後プロ向けを視野に、さらに導入を広げていきたいという。
また、微妙な温度コントロールが必要とされる化学分野においても、電気制御の特徴を生かせる。
省エネや温度調整のしやすさ、機器のバリエーションの多さから、さまざまな分野に活用が広がるオレンジヒート。産業用のみを紹介したが、民生向けには日本人にお馴染みのこたつなど、暖房器具の熱源として活躍している。今後も私たちの生活を“熱く”支えることが期待される。
(取材・昆梓紗)
(2020/1/13 05:00)