[ その他 ]
(2015/11/18 05:00)
京都市左京区の下鴨神社の社叢(そう)、糺(ただす)の森に沿って広がる閑静な住宅街の一角に「石村亭」はある。文豪・谷崎潤一郎が1949年(昭24)から7年間、暮らした屋敷だ。現在は日新電機が譲り受け、迎賓館として当時のたたずまいを今に残す▼谷崎の代表作のひとつ、『夢の浮橋』には「五位庵(あん)」として登場する。「太い二本の杉丸太の正門」「橋を渡ると四阿(あずまや)があり、西に茶席があった」など、庭や部屋の様子はそのまま、作品の中で生き生きと描かれている▼最近の京都は、サスペンスの舞台としてテレビなどに登場することが多いようだ。だが紅葉や町家、京料理、舞妓(まいこ)、社寺仏閣など、洛中洛外にちりばめられた観光資源は、近代に限っても多くの作家が題材として取り上げた▼ノーベル賞を受賞した川端康成の代表作『古都』は、平安神宮や渡月橋、上七軒など多くの名所旧跡で風物にこだわった。三島由紀夫は『金閣寺』で美の存在を追究。渡辺淳一の『化粧』の舞台となる料亭は高台寺かいわい。夏目漱石は同志社から相国寺を訪れた後に『門』を執筆した▼紅葉シーズン、京の町で文豪の足跡をたどるのも一興、いい刺激になるだろう。「石村亭」が谷崎の創作の源泉となったように。
(2015/11/18 05:00)