[ オピニオン ]
(2016/10/26 05:00)
臨時国会の重要法案のひとつが国民年金法の改正だ。年金受給資格の緩和などと並行して、従来の「マクロ経済スライド」方式を強化する。受給額の減額調整の幅を大きくするもので、年金生活者にとって歓迎されない内容だ。しかし世代間の格差を是正し、現役の勤労世代の不利を補うためには必要な措置と言わざるを得ない。
少子・高齢化が進む中で、政府は年金制度維持のために給付の削減に取り組んできた。第一に、受給開始年齢を段階的に65歳に遅らせた。第二に、受給額算定を物価や賃金の上下だけでなく、日本の賃金総額に連動する「マクロ経済スライド」を導入し、労働人口の減少に伴って給付を減らす仕組みにした。
厚生年金を受給するビジネスマンの場合、モデル世帯の年金受給額を示す所得代替率(現役世代の平均収入に対する割合)は6割から5割程度に圧縮される。それでも給付財源が不足するため過去の年金の積立金を取り崩し、100年程度かけて収支均衡させる。これが2004年の制度改正の結果だった。
ただ、その後もデフレ経済が続いたことにより、現在の年金受給世代の所得代替率は相対的に上昇してしまった。これが将来の財源を先食いしていることから、いま保険料を納めている世代が受給年齢に達した時には所得代替率が5割を割り込み、世代間格差が広がる見込みだという。政府高官は「当時こうした事態は予想できなかった」と話している。
年金受給額は現行制度でも物価や賃金の変動に応じて上下するが、改正案による新制度では、ある程度の下限を維持しつつ下げ幅を拡大する。高齢者世代の反発は必至であり、国会審議は難航している。
ただ長期的な視野で年金財政を持続可能な制度にし、現役世代の勤労意欲を失わせないためには、ある程度の調整はやむを得ない。
政府は年金改革だけでなく、女性や高齢者が働きやすい環境整備を急いでほしい。年金以外にも収入面の支えがなければ、老後の生活不安が消えない。
(2016/10/26 05:00)