[ 機械 ]

【別刷特集】切削加工-医療用難削材の加工事例と高品位加工のヒント

(2016/11/29 11:30)

 チタン合金などの医療用材料は、工具寿命、表面粗さ、寸法精度などを安定させにくい難削材である。それでも医療用難削材を容易に切削する企業は存在しており、その代表的な4社の小径エンドミルによる切削加工事例を紹介する。さらに、当センターで実施したチタン合金の凝着抑制方法についても述べる。

◇兵庫県立工業技術センター 技術企画部 主任研究員・工学博士 浜口 和也

納期・コスト・寸法精度 小径エンドミルが有利

 国内外における高齢化の進行により、医療機器への需要は増えている。医療機器は4000種類以上に分類されるため、さまざまな材料が用いられるが、付加価値が高いのはチタン合金、ステンレスなどの難削材である。

 医療用材料の加工には、切削加工、レーザー加工、エッチングなどが適用されているが、自由曲面を含む形状加工については、直径数ミリメートル以下の小径エンドミルによる加工が、納期、コスト、寸法精度などの面で有利である。

 小径エンドミルは、直径が数十ミリメートルとなる大径エンドミルに比べて摩耗や欠損が生じやすいが、次に示す4社はこのような課題を解決し、付加価値の高い医療機器や部品を提供し続けている。

独自のノウハウで高精度加工を実現

 医療機器の小径エンドミル加工を得意とする企業の加工事例を紹介する。実際に使用される医療機器は公開できないため、それらを模した形状の加工事例を掲載した。切削条件などについても同様に非公開となることをご了承いただきたい。

  • 図1 医療機器の加工事例

 図1(a)は高島産業(長野県茅野市)が加工した骨固定用プレートである。被削材は純チタン、寸法は縦5ミリ×横10ミリ×厚さ1ミリメートルである。小径エンドミルによる小型部品の加工に大型工作機械は不要と考え、微細加工用に自社開発した卓上型加工装置マルチプロ(b)で切削加工している。(c)はスズキプレシオン(栃木県鹿沼市)が加工した脊椎固定用器具である。材質はチタン合金、寸法は縦が15ミリメートル程度である。(d)は木下技研(兵庫県加西市)が加工した手術器具で、材質はステンレスSUS630である。(e)は、小松精機工作所(長野県諏訪市)が加工した歯科用インプラントで、材質はチタン合金である。寸法は5ミリメートル程度である。

 掲載した加工事例は比較的単純な形状をしているが、実際に加工されている医療器具は、より複雑な形状となる。さらに、良好な仕上げ面も求められるため、複雑な微細形状の高精度・高品位加工技術が必要不可欠とされる。

 例えば、体内に埋め込む医療器具では、表面粗さやバリに対する要求が厳しく、研磨による最終仕上げが実施されているが、研磨前の切削加工が重要なポイントとなる。

 今後も海外との価格競争が続くために、難削材であっても高精度・高品位加工を実現することが必要不可欠となる。

 前述した4社が難削材を易削材のように取り扱えるのは、切削条件、エンドミル、ツールパスなどで独自ノウハウを蓄積しているからである。

チタン合金の凝着抑制方法

 生体適合性に優れるチタン合金は難削材として知られている。チタン合金の高精度・高品位加工を実現するには、エンドミル切れ刃への凝着抑制が課題となる。ここでは当センターにおける凝着抑制事例を紹介する。

  • 図2 主軸回転数が凝着および加工面に及ぼす影響

 図2は工具半径1ミリメートルの超硬合金製ボールエンドミル用いて、45度の斜面を切削加工したときの切れ刃および加工面を示している。主軸回転数が毎分4万回転で切削したときの切れ刃には凝着が発生しているが、毎分12万回転で加工した切れ刃に凝着は認められない。切削加工面に文字を反射させた画像を比べると、凝着した切れ刃で加工した面では文字が不鮮明になり、凝着がない切れ刃では文字が鮮明に反射されている。

 チタン合金の切削加工においては、切削温度の上昇を避けるために主軸回転数を低くすることが推奨されているが、小径エンドミル加工では主軸回転数を増加させることにより凝着が低減され、良好な仕上げ面が得られる。

送り量と深さ方向切り込み量 最適な条件探る

  • 表 切削条件と凝着との関係

 表は主軸回転数を一定にして、送り量と深さ方向の切り込み量を変えたときの凝着について示したものである。

 〇印は凝着がなく加工面が良好であり、×は凝着によって表面粗さが増大したものである。送り量、深さ方向切り込み量の増加により凝着が発生しているため、これらを小さくすることにより良好な加工面が得られることがわかる。

 今回は超硬合金製エンドミルを用いた事例であるが、結合剤を用いないバインダレスcBN製エンドミルもチタン合金の高品位加工に有効である。

高品位加工で脱・価格競争

 加工しやすい医療用材料は、海外企業も含めた価格競争となる。これを避けるには、付加価値が高い難削材加工が必要となる。難削材と呼ばれる材料でも削れないわけではなく、工具寿命が延びる切削条件を見つけ、工具寿命の直前で工具を交換することによって、高精度・高品位加工は実現できる。航空機分野ほどの市場ではないが、安定した需要が見込めるため、医療用難削材の微細加工に取り組む企業が増えて、加工技術が底上げされることを期待したい。

【11/16付本紙別刷「JIMTOF2016特集」より】

(2016/11/29 11:30)

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