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深層断面/“日の丸船団”世界に挑む−海運3社のコンテナ船新会社、7月船出

(2017/4/21 05:00)

日本郵船、商船三井、川崎汽船の海運大手3社がコンテナ船事業を統合した新会社が7月に発足する。売上高2兆円、運航船腹量150万TEU(1TEUは20フィートコンテナ)と国内最大の海運会社となる。新会社は厳しい海運市場で勝ち残るため、年間1100億円の統合効果創出を掲げ、3社のリソースから最適なものを採用する「ベストプラクティス」を追求する方針だ。一方で、主力のコンテナ船事業を切り出す3社は、組織再編に迫られている。(高屋優理)

合理化で「いいとこ取り」

■統合繰り返す

  • コンテナ船は規模と効率が大事(商船三井の2万TEUのコンテナ船)

日本郵船の内藤忠顕社長は3社の事業統合が実現した背景を「海運業界はこれまでにも統合を繰り返しているし、同じ船にも乗り合ってきた。気心が知れている」と話す。日本の海運会社は1964年に再編を断行。大手6社体制となったが、89年には5社となり、99年に現在の大手3社体制にまで再編した。

こうした歴史を経て、日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、4月に発足したコンテナ定期船会社による国際的なアライアンス「ザ・アライアンス」への加盟を決めた。この協議の最中、同じくザ・アライアンスへの加盟を目指していた韓国の海運最大手、韓進海運が経営破たん。「コンテナ船は規模と効率が大事。100万TEUはないと戦えない」(内藤社長)という共通認識が、3社を事業統合に向かわせた。

■社名はブランド

3社は7月の統合会社発足に向け、各国の独占禁止法の除外承認を得るための作業を進めている。当初は3月末に完了する計画だったが、想定より時間がかかっている。だが、会社名や拠点、人事など、新会社の概要は当初の計画通り5月中に公表する方向だ。新会社の社名は広告代理店に依頼し、複数案から3社の社長が総意で決定する。商船三井の池田潤一郎社長は「社名はまさにブランド。マーケットに何をアピールするか、非常に重要」と話す。

年間1100億円の統合効果を創出するためには、組織再編や各社で重複しているサービスの統合など、合理化が必須だ。コンテナ船のコストは船の建造や運航だけでなく、ターミナル運営や内陸のトラック輸送なども含めて多岐にわたる。これを一つ一つ比較し、選び取る作業を進めている。

内藤日本郵船社長は「自分たちで判断せず、コンサルティング会社など第三者に見てもらい、いいとこ取りをしたい」と話す。日本郵船は空のコンテナを減らし、コストを削減する「イーグル」という取り組みを推進しており、「まだ最終決定ではないが、採用されるのでは」(内藤社長)と意気込む。

■ベストを選ぶ

  • 統合効果の最大化には拠点の位置もカギ(商船三井の米ロサンゼルスのコンテナターミナル)

3社は世界各地で約20カ所のコンテナターミナルを運営しているが、これも合理化の対象だ。商船三井は米ロサンゼルスをはじめ、世界各地のコンテナターミナルに自動荷役システムを導入するなど、積極的に投資してきた。「ロサンゼルスも使えるアセットだし、ベトナム・ハイフォンは他を寄せ付けない競争力がある。新会社の力になる」(池田商船三井社長)と自信をみせる。

統合効果を最大化するには、拠点をどこに置くかもカギとなる。現在、日本郵船はシンガポール、商船三井は香港、川崎汽船は日本に拠点がある。三つの拠点からベストプラクティスを選択することになるが、池田社長は「人材確保」をポイントに掲げ、「現地法人の営業はローカルの人材がやる方がよい。トップのコネクションやネットワークを活用することで、会社は強くなれる」と話す。

コンテナ船の穴埋め―海外ネットワーク再構築

■新会社と並行

コンテナ船事業を切り離す各社にとっての課題が、海外ネットワークの再構築だ。川崎汽船の村上英三社長は「コンテナ船事業は組織のベース」と話す。海運会社にとってコンテナ船事業は海外の現地法人のあり方などを含めて組織全体の基盤となっている。このため、3社は新会社設立と並行して、コンテナ船事業が抜けた穴を埋める作業を進める必要がある。

日本郵船は自動車船のネットワークをベースに、タンカーなどのネットワークを合わせて再編する。内藤社長は「グループの郵船ロジスティクスも世界中に拠点がある」と、グループ全体のアセットを最大限に活用する。

商船三井は「米国や欧州はコンテナ船と別系統のネットワークがあるが、東南アジアはコンテナ船のみの拠点があり、2―3カ所で新たな現地法人を立ち上げることになる」(池田社長)と話す。

商船三井では16年4月に主要な地域の現地法人の幹部に、その地域全体を包括した「国代表」の役割を与え、事業部門を越えて取り組む姿勢を鮮明にした。コンテナ船事業が無くなった後、こうした機能がより重要となるだろう。

■市況は回復基調

コンテナ船の運賃市況は韓国・韓進海運の破たんもあり、16年4月を底値に回復基調にある。川崎汽船の村上社長は先行きについて「18年4月の事業開始は、市況もよくなったところでスタートできる。統合効果も出てくるし、心配していない」と話す。

海運業界では16年10月に3社が統合を発表した後も再編が続いている。世界最大手のA・P・モラー・マースク(デンマーク)は独ハンブルク・スードの買収を発表。買収すればマースクの船腹量のシェアは約19%まで高まり、すでに強固な地盤をさらに固めることになる。

5月末には独ハパックロイドが中東のユナイテッド・アラブ・シッピング・カンパニー(UASC)を買収する予定。4月時点のハパックロイド、UASCの合計シェアは、日系3社を僅差で上回る規模だ。

■中堅取り込み

  • 世界最大の海運会社、マースクは再編に積極的だ(ブルームバーグ)

日本郵船の内藤社長は今の段階で「150万TEUの規模があれば十分」とするが、マースクは着々と規模の拡大を進めている。中堅以下では経営状況が悪化している海運会社もあり、こうした企業の取り込みによる規模拡大は、統合会社が競争力を高める上で必要不可欠となる。

また、コンテナ事業と同じように市況低迷にあえぐドライバルク船事業も各社の悩みの種。コンテナ船のように切り出して事業統合をするのか、次の動きが注目される。

(2017/4/21 05:00)

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