[ 機械 ]

【型技術】金型業界を支える周辺機器&システムメーカー/加工条件の最適化シミュレーションで高効率・低負荷のエンドミル加工を実現

(2017/7/3 13:00)

  • 図1 立体分析の実施画面。中央のグラフが工具1回転中の切削力の変化を示す

 MIST(東京都中央区)は、エンドミル加工を対象とした切削条件の最適化シミュレーション「切削キャッチャー」の提供や、加工プロセスの最適化に向けたコンサルティングを手がける。切削キャッチャーは6月に最新版のリリースを控えており、エンドミルの形状やワーク材質をより詳細に設定できるようにして解析能力を高める。自動車向けを中心に金型の大型化が進み、加工の複雑化への対応が課題となる中、工具摩耗を抑えたうえで、限界まで高効率化を追求するエンドミル加工方法を提案している。

 同社は、金型メーカーやCAD/CAMベンダーでの勤務経験をもつ山田拡行社長が2007年に設立した。山田氏はCAD/CAMベンダーで5 軸加工機のユーザー支援に携わった経験から、エンドミル加工を行うユーザーの多くが工具メーカーの推奨値を採用したり、過去のデータや作業者の勘に頼ったりするだけで、加工条件を最適化できていない現状を目にしていた。「理論に基づき、加工条件を論理的に突き詰める方法論があれば」と考えた山田氏は、仕事の空き時間や休日を使い、切削キャッチャーの原型となるシステムを組み上げた。

(編集部)

3つの解析手法で最適条件を導く

 切削キャッチャーの特徴は、「基本分析(ファンダメンタル)」、「平面分析(ミクロ)」、「立体分析(マクロ)」の3つの分析フレームワークで加工条件を導き出す点にある。基本分析では、2次元切削理論を用いて刃先とワークの関係を分析する。平面分析では、真上から見たときのワークとエンドミルの平面的な幾何学関係を分析。最後の立体分析では、3次元モデルを用いて刃の食い込みを解析する。3つの分析を経て導き出された加工条件(①工具回転数、②送り速度、③Z方向切込み、④ X・Y 方向切込み)を、ツールパスを作成する際のCAM の条件設定画面に入力する。

 実際の画面操作は3つのステップで行う。ユーザーはまず、画面で行いたいエンドミル加工の情報を入力する。ワーク材質、工具径、工具の刃数、工具形状、チップタイプかソリッドタイプか、そのほか加工の種類などを選択し、X・Y方向切込みの狙い値を入力する。ワンクリックで基礎分析と平面分析を行い、最適な工具回転数と送り速度を算出する。

  • 図1 立体分析の実施画面。中央のグラフが工具1回転中の切削力の変化を示す

 次に、基礎分析と平面分析で得られた結果をもとに、立体分析で最適なZ方向切込みを算出する。まず、工具のねじれ角や工具の突出し長さ、刃長といった必要な情報を入力する。ワンクリックで、1 回転中に工具にかかる動的切削力の変化をグラフ化する(図1)。摩耗を抑え効率化を実現するために重要なのは、グラフで示す切削力の変動をいかになくすか。そこで、「切削力一定ポイントボタン」を使い、Z方向切込みを自動で変化させることで、工具にかかる力が平準化するポイントを探る。グラフの波が小さくなり、平らになったときのZ方向切込みが最適値となる。一般的な現場だと、ベテランが加工時の「音」などを頼りに加工状態を推定し、X・Y方向やZ 方向切込みなどを適時調整するのみで、ほとんどの場合最適解にたどり着けないが、切削キャッチャーであれば「理論的に短時間で最適ポイントにたどり着ける」(山田氏)。

 最後に、片持ち梁理論を用いた「びびり振動解析」で、工具のびびりの有無を確認する(図2)。びびりが発生する場合は、基礎分析と平面分析の画面に戻り、パラメータを再度調整することで解消を図る。

  • 図2 びびり振動解析画面

5軸加工の最適化に力を発揮

 切削キャッチャーは現在、金型メーカーや航空機部品メーカー、大手企業の技術開発部門などに採用されている。ソフトウェアライセンス(標準:100万円)とトレーニング実施(標準:2日間20万円)のセットで提供している。

  • 図3 5軸加工機による自動車向け金型の製作

 図3に示す自動車向け金型での導入事例では、5軸加工機を用い、S50Cを最適切削条件で加工した。従来の放電加工を含む工程を、総直彫りに変えることで大幅な加工時間短縮につながった。荒加工から仕上げまで、どの段階でも加工時間を短縮できるが、特に効果が出やすいのは荒加工で、図3の事例では150分を30分に縮めた。また、工具チルト角の設定が可能なため、「ボールエンドミルを用いた5軸加工の解析に威力を発揮する」(山田氏)という。

 6月に予定する最新版では、①テーパエンドミル加工への対応、②ホルダ設定の拡充、③ワーク材質(チタン系難削材)の追加、④ボールエンドミルの切れ刃部位ごとの1刃送り量ダイナミック解析、などが主な改善点となる。

 テーパエンドミルは剛性が高く、ブレードなどの部品を一発加工するのによく使われている。そこで、フラットエンドミル、ボールエンドミルの2種だった工具形状の項目に追加した。ホルダはストレートのみだったのを、焼ばめタイプや段付きタイプにも対応。ワーク材質は、近年の難削材のニーズに応えた。

 ボールエンドミルの1刃送り量ダイナミック解析では、工具回転中に切れ刃のどの部分がワークと接触するかや、各接触ポイントおける1刃送り量の振る舞いを詳細に評価する独自の理論解析を備える。特に、小径ボールの5軸加工に効果が大きい。オリジナル機能を拡充することで、新たなユーザーの獲得につなげる構えだ。

CAM人材を育てる教育サービスも視野

 エンドミル加工では、①切削条件に加え、②ツールパス、③工具・ホルダ、④マシニングセンタの4 つの観点から最適化を進める必要がある。山田氏はこれら全体の最適化をサポートするビジネスモデルを模索しており、現状の切削キャッチャーの提供やコンサルタント業に加え、技術者向けの教育サービスの提供も視野に入れている。

 「エンドミル加工現場は人不足が深刻化している。特に、CAM人材の育成には、どの企業も苦慮しているが、エンドミル加工についての体系的な教育がなされていないことにも問題がある。例えば2 週間程度の初心者向けの研修を提供することで、若手人材の定着につながるのではないか」(山田氏)。東南アジアなど海外人材向けへの展開も将来的には考えている。今後も、勘・経験ではなく理論とデータに基づいた体系的アプローチで、エンドミル加工の最適化をサポートしていく。

型技術 2017年3月号より

→ MF-Tokyo2017特集

(2017/7/3 13:00)

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