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【電子版】デジタル編集部から(64)「トロン」坂村教授に聞く、AIのゆくえ

(2017/11/11 05:00)

実社会で人工知能(AI)の普及が急速に進んでいます。その一方、将来の雇用への影響などを心配する声や、AI研究での日本の後れが指摘されています。そこで、リアルタイム組み込み用OS「トロン」の開発および普及で知られ、AIやIoT(モノのインターネット)などの動向にも詳しい東洋大学情報連携学部(INIAD=イニアド)学部長の坂村健教授(東京大学名誉教授、トロンフォーラム会長)に、AIについて今後の見通しを聞きました。

  • 東洋大学情報連携学部(INIAD)学部長の坂村健教授

自ら定石を生み出す新型「アルファ碁」に驚き

――いわゆる「第3次AIブーム」はしばらく続きそうですか。

ブームがしばらく続くどころか、やはりAIはブレークスルー(実用化への難題を克服)したのだと思う。とりわけ数年前から勢いが加速したのは、技術進歩によりニューラルネットワーク(神経ネットワーク)タイプのAIの実行効率が実用的なものになり、定着してきたことが背景としてある。加えて、深層学習とか強化学習といったニューラルネットワーク設定の自動化技術が登場し、さらにそれらを使うのもクラウドで簡単になり、具体的にどういうことをやるのかというイメージが広く理解されてきた。素晴らしいことだと思う。

――第1次、第2次のブームと今回は完全に違うということですね。

まったく違う。とくにすごいと思うのが、人間最強の囲碁棋士を破った英ディープマインドの「アルファ碁」の例だ。アルファ碁はもともと、人間の囲碁棋士の定石(じょうせき)を学ぶことから発展していった。ところが、ネイチャー10月19日号に論文が発表された発展型の「アルファ碁ゼロ」では、そうした定石を全部捨てて、さらに強くなっている。AI同士を何百万回とか何千万回という途方もない回数戦わせた結果、新しい定石まで作り出していったという。

そのニュースを知った時には、ちょっと怖いというか、興奮で多少ブルっと体が震えた。試行錯誤による強さと、人間では到底不可能な対局回数もあるが、そこで明確になったのは、大量のデータに基づくCNN(畳み込みニューラルネットワーク)型のAIが進化するという方向性。ある目標に対し、データが大量に供給され、試行錯誤の回数がある一定のしきい値を超えれば、人間よりもはるかに高い目標達成ができるということだ。

あらゆる分野に活用可能なAI

――それは囲碁など、ある分野に限られる話でしょうか。

ある分野に限られるわけではない。全分野にわたって活用できる。

――全分野というのは、いずれさまざまな分野に使える汎用のAIができるということですか。

そうではない。全分野に使えることと汎用は違う。汎用は分野指定しなくても使えるということ。AIを活用する分野は人間が定義し調整しなくてはならないが、AIの応用分野を限定する必要はないと思う。

――それによって社会や経済にどのような影響が及ぶと思いますか。雇用面などを懸念する声も出ていますが。

それを完全に予測するのは不可能だ。ただ、われわれがこれまで見たこともなかったイノベーションが、今後数年で次々に出てくる可能性がきわめて高い。想像もできなかった分野でAIが成果をあげることも十分に考えられるので、雇用にどのような影響を及ぼすかの予測はかなり難しい。ただ、大きい影響を与えることだけは確実だと思う。

日本は応用研究に軸足を

――一方で、AI研究をめぐっては、米国と中国の取り組みや成果が突出し、日本は後れていると言われています。

確かに日本は後れをとっている。日本も頑張るしかないとは思うが、ビジネスや社会に影響を与えるということになると、応用研究が重要になると思う。例えば、グーグルの「テンソルフロー」(機械学習のためのオープンソースソフトウエアライブラリー)などはオープン化されているので、そうしたものをどれだけ使いこなせるかにもかかってくる。応用研究に少し軸足を移すことで、経済や社会とかAIによる影響が心配される部分に対して手を打っていった方がいい。

――応用研究では、大学やスタートアップなども中心的なプレーヤーとなっていくのでしょうか。

それより、応用分野を持っている人たちが自分たちでチャレンジしなくてはいけない。例えば、IoT(モノのインターネット)を農業に応用することで「スマートアグリ」とか、第一次産業の生産性を飛躍的に向上させられる可能性がある。コメ作りでも水をどう供給するかで収穫量が変わってくる。日本の農業では農業従事者の永年の経験と勘に基づいて水の量などを調整していた。それが、IoT化された農業では、水の温度、流量、外気温度、土壌温度、それに生産量などのデータが全部クラウドに集まり、クラウドにつながった電磁バルブを遠隔操作できるようになっている。現状ではAIを使わなくとも生産性が上がっているが、そこにAIを導入すれば「永年の経験と勘」の部分も機械化できる。就労人口の減っている1次産業、2次産業にAIを使えば、その効果は計り知れない。

グーグルもクラウドサービスを提供するデータセンター(DC)での空調制御にディープマインドのAIを応用し、消費電力を40%減らすことに成功したと1年前ぐらいに報じられた。こうした事例を見る限り、複雑に変化する自然が相手ということで単純な自動化では効果がなかった農業のような分野でも、適用できる可能性が出てきた。IoTによる大量データを使って、判断はAIが行い、人間が気づかなかった方法でコメを作ったり、海で魚がいる場所を探したり、応用分野は限りなく広い。これはすごいことだと思う。

オープン化の重要性

――AIの発展は素晴らしいことですが、気を付けなければならないこともあると思います。特定の会社に技術が握られ、支配される可能性もゼロではありません。

だから、技術の独占は良くないということで、私はオープンアーキテクチャーを40年も前から唱えてきた。誰でも使えるオープンプラットフォームで世界にイノベーションを起こすということをトロンプロジェクトではずっとやってきた。そうしたAI独占の危惧についてマスコミがメッセージを発することで、みんなが気を付けるようになり、結果的に世の中が良くなっていくことにつながるのではないか。

――米テスラCEOのイーロン・マスク氏や、英国の宇宙物理学者であるスティーブン・ホーキング博士を筆頭に、AIの進化が人類に災厄をもたらすと主張する人たちも少なからず存在します。

ちょっと考えすぎだと思うが、そうした意見もAIを暴走させないためのブレーキ役になっている。彼らがなぜそういうことを言っているかというと、AIが先行きどう発展するのか分からないから。今までなかったくらいのイノベーションの嵐が起きようとしている時に、将来こうなりますと明確には予測できず、さまざまな可能性が取り沙汰されている。いろんな意見が出ることこそ、健全な姿だと思う。

(デジタル編集部・藤元正)

(2017/11/11 05:00)

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