防災対策、テクノロジー利用拡大へ 政府タスクフォースを設置

(2020/5/6 05:00)

科学技術を活用した防災への取り組みが加速している。内閣府は2月、情報通信技術(ICT)や新しい技術により防災対策の施策を検討する特別作業班(タスクフォース)を設置した。科学技術や防災などを担当する内閣府と内閣官房の各部局が連携し、2月から月1回のペースで3回の会合を実施。自治体や大学、民間などの取り組みを聞き取り、災害情報の収集や発信のため、会員制交流サイト(SNS)や人工衛星の活用などを議論している。今後、科学技術を利用した防災対策の進展が期待される。(冨井哲雄)

府省庁連携、SNSや衛星活用も議論

  • タスクフォースでの議論。中央が座長の平内閣府副大臣(4月22日、内閣府)

以前から防災は宇宙やITなどの各部局で共通のテーマ。防災と科学技術関連部局が連携することで、政府全体で防災に関する中長期ビジョンを共有することがタスクフォース設置の狙いだ。部局同士の連携で防災技術の開発や実装のための時間を短くできると期待される。タスクフォースの座長は、ITや防災、科学技術政策を担当する平将明内閣府副大臣が務める。

2月のタスクフォース設置時の会見で、平副大臣は「ヒアリングを通し、SNSや人工知能(AI)、インターネットを通じモノやサービスなどを多くの人と共有する仕組み『シェアリングエコノミー』(共有型経済)などを新しい課題の解決に役立て、防災対策への道筋を作りたい」と防災と科学技術の連携による相乗効果に期待を示した。

【IT活用】

平副大臣は被災地でITを活用するため、個人に合わせた避難指示技術の実用化を構想する。人命救助では災害時に避難指示が出た際、多くの住民は一斉に避難所につめかけることになる。「ITがあれば今のように一斉の避難ではなく、一人ひとりに対し、適切な時間に適切な指示を個々に出せる。個人に合わせ情報登録し適切な勧告が個別に出せれば、危険な思いをする人が減り、リスク低減ができるのではないか」と強調する。

さらにマイナンバーカードを利用した罹災(りさい)証明や関連する申請書類の電子申請も提案。今の制度では申請者が紙の罹災証明書を市町村の役所に持っていき、役所の職員が書類を郵送や確認などを行う必要がある。実際、2019年秋に甚大な被害をもたらした台風15、19号の際には申請に時間がかかった。

「マイナンバーカードを利用した電子申請ができれば、記入漏れの修正が簡単になり、書類の郵送や確認の手間が省けるだろう。必要なお金が被災者に届くのが劇的に早くなる」(平副大臣)。

【SIP4D】

内閣府の研究開発プログラム「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では大規模災害時の被災状況の予測や大型台風対策などにも取り組んでいる。この枠組みで防災科学技術研究所は関係機関で被災地の情報を共有できる府省庁連携防災情報共有システム「SIP4D」を開発した。紙の地図や手書きのホワイトボードで行っていた情報集約を電子地図上で行い、リアルタイムの被害推定や避難所、保健医療、道路規制などの情報を電子地図に重ね合わせられる。現場で必要な情報を見やすい形で提供できる仕組みだ。

さらに内閣府は、SIP4Dを活用することで、大規模災害時に災害情報を集約・地図化しつつ、自治体などの災害対応を支援する官民チーム「災害時情報集約支援チーム(ISUT=アイサット)」の活動を18年に開始した。

被災地の都道府県の災害対策本部などで国や自治体、民間の災害対応機関から気象などの状況、インフラやライフラインの被災状況、避難所の開設状況などの情報を収集し地図化。災害ごとに開設する専用ウェブサイトで災害対応機関に提供する。アイサットが提供する避難所支援用地図は、インターネットにつながるパソコンやスマートフォンなどがあれば、どこでも閲覧可能だ。

19年の台風被害の際にもアイサットが被災地でSIP4Dを運用し、避難指示などの意思決定に役立てられている。

AIチャットボット注目 一般から多数の災害情報収集

【対話アプリ】

タスクフォースの活動では、3月に鈴木英敬三重県知事を招き、「SNS・AI技術等を活用した災害対応」と題してAIを使った防災チャットボット(自動応答ソフト)やAIスピーカーの活用などを話し合った。

防災チャットボットとは、災害時に対話アプリケーション(応用ソフト)「LINE」などのSNS上でAIが人間に代わって自動的に被災者と対話するシステム。防災科研や情報通信研究機構、ウェザーニューズ、LINEが共同で開発した。

災害対応機関は防災チャットボットを通じて被害状況に関する情報を多くの住民から集める。例えば「A地域で液状化現象が起きている」といった一般からの情報に対し自動で受け答えすることで、災害状況に関する情報を収集。適時的確な支援が行える上、写真や位置情報を含めた詳しい現場状況を把握できるという。

また、災害対策本部では、膨大な業務に追われ住民からの問い合わせに答えられない場合もある。こうした受け答えにもチャットボットが役立つとみられる。「どこに避難できるか」「〇〇中学校に避難できます」というように避難情報を伝える支援機能も充実させる。個人個人に対する迅速かつ的確な情報提供に加え、問い合わせ対応者の負担軽減にもつながりそうだ。

「みちびき」で安否情報

【宇宙から】

一方、4月22日の会合で議題となったのは宇宙技術を利用した被害状況把握について。宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学、宇宙ベンチャーなどの責任者と議論が交わされた。

  • 「Q―ANPI」の概念図。災害時に衛星経由で避難所の位置や避難所の状況などを通知する(内閣府のウェブサイトから)

JAXAは陸域観測技術衛星「だいち2号」を防災対策に利用。衛星からレーダーを地表に照射し反射波の強さを災害前後で比較することで、大雨による浸水や土砂崩壊などでの被災地の特定に役立てられる。得られた防災データは、内閣府や国土交通省などの関係府庁、地方自治体などに提供され、衛星画像を利用した防災計画の策定などに使われている。

内閣府が運用する準天頂衛星「みちびき」を利用したシステムも防災対策の有効な手段だ。地上インフラは大規模災害時に利用できなくなる可能性がある。宇宙を利用したみちびきの通信機能で、避難所にいる人々の安否情報の収集が可能になる。すでに内閣府は、災害時の避難所の状況や個人の安否情報などをみちびき経由で集め防災機関が活用できる「衛星安否確認サービス(Q―ANPI)」を始めている。さらに避難所以外の住宅地やオフィスビルなどでの避難者の安否情報をスマホでリレーして伝えながら、みちびき経由で通信するシステムの開発や実証を行っている。

【シェアエコも】

今後は小型飛行機を成層圏に飛ばし地上での通信に利用する試みや、シェアリングエコノミーについて5月に議論する計画。残り2回の会合を5月中に実施し、今夏までに施策の方向性をまとめる。6月ごろに決まる政府の骨太の方針や、21年度予算概算要求などに反映したい考えだ。

新型コロナウイルスの感染が広がる中でも自然災害は待ってくれない。ITや科学技術が防災や災害対応の一翼を担う余地は、まだまだありそうだ。

(2020/5/6 05:00)

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