長寿企業が切り開くニューノーマル 100年経営の会からの提言(4)

(2020/9/2 05:00)

コロナ禍を超えた未来を開くのは100年経営―。100年経営の会(事務局=日刊工業新聞社)は、いわゆるポストコロナに向け、長寿企業の優れた経営手法についての発信を強化する。7月28日に開催した通常総会では、長寿企業トップや研究者によるシンポジウム・勉強会について、ウェブも活用した定期開催や、顕彰事業を全国規模で開催する方針を定めた。総会の模様とともに、8月に開いた勉強会、顧問へのインタビューを紹介する。

顕彰事業、来年全国に拡大

100年経営の会 第9回通常総会

100年経営の会第9回通常総会は、新型コロナウイルス感染状況を踏まえ、都内で北畑隆生会長(元経済産業次官)、井水治博理事長(日刊工業新聞社社長)、野田泰三監事(セラリカNODA社長)らごく少数の出席と、大半の会員企業の書面評決により開催した。2019年度の事業報告および収支報告を審議・承認した後、20年度の事業計画・予算案について議論を進め承認した。また新設の副会長に木川眞ヤマトホールディングス特別顧問が就任した。

19年度は曽根秀一顧問(静岡文化芸術大学准教授)の講義を中心に「ファミリービジネスにおけるガバナンスおよびコンフリクトに関する史的研究」「地域に根ざした欧州老舗ファミリービジネスの存続戦略」「近江商人に関する研究報告」といったテーマの勉強会を開催。一方で、19年度から20年度にかけて予定した北海道・東北地区での長寿企業の表彰制度「100年企業顕彰」は中止した。

顕彰事業はこれまで全国各地の経済産業局などの支援を得て、中部、九州・沖縄、近畿、関東で開催したが、20年度中の募集なども順延し、21年度に全国規模で開催することを決めた。また、100年経営の会会長賞など同会からの各賞だけでなく、これまで中小企業庁長官賞、各都県知事賞、各経済産業局長賞が交付されてきたが、次回21年度開催では経済産業省の協力を得る予定で、審査体制、選定基準なども一層の充実を図る。募集についても全国の幅広い業種の創業100年以上の老舗企業に、企業規模にかかわらず呼びかけ、顕彰制度の浸透を図る。

シンポジウム、勉強会などについては、ウェブを活用したリモート開催も拡充し、これまで参加しづらかった全国の会員による議論・交流の場を増やす。今後は曽根氏や後藤俊夫顧問(日本経済大学特任教授)ら研究者のほか、会員企業をはじめとする長寿企業トップに随時登壇してもらい、長寿企業の経営のあり方について発信する。

危機克服の経験生かす

100年経営の会会長・北畑隆生氏

今まさにコロナ禍と呼ばれる状況だが、この会は東日本大震災という1000年に一度と言われた危機を克服するために、2011年10月に発足した。1000年に一度とか100年に一度と言っても、日本には100年以上存続し、さまざまな危機を乗り切ってきた企業が世界で最も多い。そうした企業の存続の秘訣(ひけつ)を探ろう、あるいはそうした日本の企業の良さを内外に発信していこうというのが当会発足の趣旨だ。

コロナ危機を克服するコツも、やはり「100年経営」にある。経営者が過去の危機を克服したコツや、経験を持っていることは大きい。これまで当会が分析してきたように100年企業は、従業員を含む「人」と、「取引先」と、「社会」を大切にする企業だ。それが100年経営の基本であり、そういう基本がある企業は長続きする。そんな100年企業は、こんな状況に負けるものか、と考えているはずだ。これまで危機を乗り越えてきたように、新しい知恵で活路を開くだろう。

そもそも、コロナ禍といってもどの程度のものだろうか。私の経験から余談を言うと、リーマン・ショック直後の2008年10月に福井で講演をした。当日は日経平均株価7000円と新聞に題字が踊るほどの状況。私は「100年に一度の危機のはずはない。日本の金融機関は痛んでいないので、全治3年だろう」と話した。その後どうだろうか。逆張りというわけではないが、皆が騒いでいる時にちょっと立ち止まり、本当だろうかと思う精神は必要だ。100年企業は、長年の危機に耐えた経験から右往左往しない。

今回もワクチンが開発されるまでの我慢ではないか。次にまた新たな感染症に襲われるかも知れない。そうしたら、また我慢しよう。数年後には一番感染率が低く衛生的で、訪問したいのは日本、となるはずだ。

ただ、ポストコロナで社会が変化するのは間違いない。一つは「日本回帰」。やはり海外にサプライチェーンを分散してネットワークを作る生産方式は、リスクが伴うことがわかった。主要事業は日本に戻そうという動きが出るだろう。

そしてリモートワークの定着。緊急事態宣言後の対応で、テレワークで十分やれることがわかった企業は多い。国内の本社が機能してリモートワークで世界と勝負できることは実証できた。ここにはさまざまな新しいビジネスが生まれるはずだ。労働者を本社に集める必要はなく、会社は効率化する。東京近郊に住まなくとも新幹線で月2回リアルで打ち合わせできれば良い。かけ声倒れだったワークライフバランスが定着するきっかけになる。

さらに地方回帰、地方再生の芽が生まれる。地方に根付いてきた100年企業の場合、地方に拠点を置くことがハンディではなく、メリットが出てくる。そして100年どころか200年、それ以上続く企業になっていく。だからこそこの機会に、もう一度100年企業の良さを内外に発信する。

ポストコロナ経営 老舗企業を調査

利他経営で変革期に挑戦

日本経済大学大学院特任教授・後藤俊夫氏

新型コロナウイルスに関する対策と経営の状況について、5月に100年企業へのアンケートを実施した。大半が中小企業の95社から回答を得たほか、興味深い企業・地域などには継続して聞き取りを続けている。

コロナ禍で売り上げが5割以上減ったところは3割以上あったが、資金繰りに1年以上の余裕がある企業は6割を占める。足元を固める堅実な動きがある一方で、約9割が今回のコロナショックを社会経済の変化の兆しと捉えている。8割の企業は販売方法の変更を試み、3割は新たな事業を立ち上げた。危機を脱するために果敢に挑戦しているのだ。

こうした中、特徴的な企業や地域に着目している。例えば兵庫県の温泉地では観光協会が音頭を取って温泉手形を発行するなど地域ぐるみでパイを伸ばしている。富山県の花き業者は生産者を守る努力をしている。東京の和菓子店は取引先にお見舞いメールを出すほか、他社の物販の手伝いを買って出る。いずれも過去の経験から、老舗(しにせ)ならではの知恵がにじみ出る。

和菓子店の会長に聞くと「これくらいのことは10年に1回はある」という。過去100年の間に、未曾有(みぞう)の危機は何回あっただろう。関東大震災をはじめとする自然災害、リーマン・ショックなど社会経済の大きな変化、業界固有の技術的変化や規制など法制面の変更など、その会社には指折り数えると12回あったという。さらに事業承継をファミリービジネスとして捉えると、平均28年に1度、つまり100年間に3回は継承するタイミングがある。

そうすると、15回くらいは大変革をくぐってきたというわけだ。そのたびごとに知恵を出して、今がある。そして変革期、もっというとピンチは、新しいことをやる企業が伸びる「節目」でもある。

ただ、老舗企業は独りで生きてきたのではない。社員や地域と長期にわたる信頼で結ばれ、地域の名士たり得てきた。ポストコロナの経営は、自社だけを考えるのではない「利他経営」ではないか。京都の大手モーターメーカーのトップが「従業員を大切にしよう」と語り、ちょっと周囲を驚かせたが、長寿企業はそんなことをずっとやってきたのだ。

中国で書籍を刊行していて社会の変化に気づく。ポストコロナで日本の長寿企業に見習う動きがあり、有名経営者らが「利他」を打ち出した本を出版している。中国が経営哲学の時代となったのだ。明日の経営は日本の100年企業にあり、と世界に示していこう。

リモート勉強会

リスク念頭に長期的視点

静岡文化芸術大学准教授・曽根秀一氏

今後ウェブを通じても会員の皆さまと交流するが、今回は「プレ・リモート勉強会」としてお話しする。大学の授業は前期は全てリモートだった。長寿企業研究は移動が制限され、資料を深掘りしている。江戸時代の経営指南の書物を読むと、現代におけるテーマが既に語られている。

こういう時期でもあり、これまでの研究も踏まえ、企業にとってのリスクについてお話しする。そもそもリスクとは、損害あるいは損失発生の可能性、期待した結果からの現実の乖離(かいり)、あることが実際に発生する不確実性を指す。将来の出来事にどう対応するかを考えることでもある。

リスクマネジメントは、企業を支える資産、活動、稼働力を保護することで、これがうまくいかないと企業は倒産してしまう。企業倒産の防止が目的だ。私もこれまでに「リスクマネージャーとしての近江商人の研究」といった論文をまとめたが、現代の上場企業についての外部の調査では、リスクとして地震・風水害などの災害、法令順守違反、人材流出などが挙げられている。災害にはウイルスについても入る。

学術の世界でリスクマネジメントが登場したのは50年ほど前、保険の分野だ。その後、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件などを経て経営戦略型のマネジメント研究が発展した。老舗企業についていうと秋に共同で学会報告する、代々続く近江商人のツカキグループには「三分法の教え」があり、リスク分散として事業や拠点、資産を分けている。長期的な視点で見続けてきたことは老舗企業の財産だ。従業員や取引関係、地域も含めたステークホルダーとの関係の上に、存続をメーンにした明確な理念を持ったリーダーが求められる。

「三分法」のように世代を超えてもぶれない軸を持ち続けている企業はやはり強い。今風にいうとサステナブルな視点でサステナビリティーに軸足を置くということ。また自然災害や経済危機を乗り越えて大きくなった企業を見ると、社会変容期を好機として捉えて時流に乗り、さらに繁栄している。

日本発のモデル発信

勉強会後半はコロナ禍の現況や、経営について意見交換した。

野田泰三・セラリカNODA社長

 4月以降コロナの影響による売り上げの落ち込みは大きいが、理念を戦略・戦術に落とし込む議論を進めている。こうした場から学んだことを会社に生かしたい。

羽生田豪太・羽生田鉄工所社長

 リスクについては、危機感がないのに危機意識を持とうと呼びかけても難しい。危機感の社員と共有は非常に大事だ。会社の変化では、デジタル化が加速している。中小が苦手な分野だが大急ぎで進めている。

島田博夫・シマブンコーポレーション会長

 コロナ禍で大事なのは、まず学生の採用。長期的な視点で減らすまいと考える。また、旅費交通費、交際費始め一般管理費が劇的に下がったが、コロナ後の新しいルールを考えている。個人への手当を増やし交際費を減らすなどを検討中だ。

田島秀夫・TOMAコンサルタンツグループ顧問

 お客さまには助成金や融資を活用して手元資金を潤沢にしておくようアドバイスしている。また、テレワークで本社はガラガラだが、これを活用できないか考えている。

小原泰・新日本パブリック・アフェアーズ社長

 100年経営こそがポストグローバル資本主義の日本発のモデルだ。老舗の事例をもっと共有し、当会から発信していきたい。

曽根

 それぞれの業界・業種で抱えている問題がある。会員企業の皆さんが持たれているノウハウをまとめて発信したい。

島田

 勉強会はいずれリアルでも集まれればいいのだが。

豊工業、小学校などに寄贈

手洗いタイマーの普及図る

  • 職場でも手洗い習慣

  • 子ども向けには動物のデザインも(右)

コロナウイルスを手洗いで払拭(ふっしょく)―。100年経営の会メンバーの豊工業(さいたま市)は、職場や学校、家庭でしっかりとした手洗いを習慣化するための「30秒タイマー=写真」を開発した。まず地元の埼玉県桶川市内の小学校7校に10個ずつ寄贈。生産体制などが整った後、シャイニー(さいたま市)が販売する計画。

残存ウイルスが30秒の手洗いで0.01%に、30秒2セットで0.0001%に減る、という研究報告から、時計状の秒針が対向位置まで180度回るタイミングが、どこから始めても一目でわかるようカラーデザインした。複数人が随時始めても、30秒、60秒が容易に実感できる。国内での組み立てにこだわり、当面普及促進のため教育機関や100年経営の会会員企業に寄贈する。

(2020/9/2 05:00)

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