[ オピニオン ]
(2016/1/20 05:00)
2016年春の労使交渉(春闘)が事実上、スタートした。経団連は19日、経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会(経労委)報告書」を公表し、昨年を上回る年収ベースの賃上げを求めた。3年連続の賃上げ要請となり、企業負担の増加が懸念される。ただデフレ脱却には適正な富の再分配が不可欠。日本の経済成長のためにも、活発な議論が必要だ。
今春闘は25、26両日の労使フォーラム、29日の経団連と連合の首脳会談を経て本格化する。焦点となるのは、賃上げが昨年実績をどの程度上回り、中小企業を含めた全体の底上げを果たせるか。15年の大手企業の月例賃金の上げ幅は2・52%。さらなる年収増は容易ではなかろう。
経営側が賃上げを後押しする春闘は今年で3年目。政府の強い要請を背景に、ベースアップ(ベア)を含めた積極姿勢を続けているが、一部企業の“賃上げ疲れ”を指摘する声もある。特に固定費増加に直結するベアは経営側にとって負担が大きく、3年連続の実施をためらう企業も多い。経団連ではその点に配慮し、経労委報告を「月例賃金の一律的な水準引き上げに限られず、さまざまな選択肢が考えられる」との表現にとどめて各社判断に委ねた。
景気の先行き不安も、経営者の財布のひもを堅くさせることにつながる。年明け早々、為替相場が円高に振れたほか、中東や朝鮮半島の地政学リスクが浮上し、株式市場は乱高下。世界経済の行方は不透明感を増すばかりだ。「昨年より難しい判断を迫られている」と素材メーカー首脳は語る。
懸念材料は多いものの、経営側に一歩、踏み込んだ対応が求められているのも事実だ。円安の定着で、自動車を中心とした製造業では過去最高益を更新する企業が続出、富の配分を実施しやすい環境にある。しかも政府が掲げる「国内総生産600兆円」という壮大な目標を達成するには、消費と投資の拡大が欠かせない。
ボールは民間企業に投げられている。賃上げは日本の成長に向けた起点となろう。今春闘の賃上げを“成長の分配”につなげたい。
(2016/1/20 05:00)